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第6話
あの日以来。俺の身体はおかしい。
発情期でもないのに、無意識にアルベルトを求めようとしてしまう。
「阿保か俺は。そういう行為自体、今まで嫌だったはずなのに」
その嫌だった理由は、相手が俺を嫌がるから。
俺とのセックスを嫌がる相手を見るのが嫌だったから、セックスなんて嫌いだった。
けれど、アルベルトだけは違った。
俺を好きだと言って、そして抱いてくれた。
正直この爪でアイツの背中を引っ掻いたり、この口でどっか噛んだりしないか冷や冷やしたが……。
「いや。それよりも目を覚ました時が一番冷や冷やしてたな……俺」
別に全く信用してなかったわけじゃねぇが。
アイツが目を覚ました時。俺を抱いたという事実に幻滅しないか。後悔しないかが一番不安だった。
でも。
「もう、不安がらなくていいんだな……」
目を覚ましたアイツは、いつもと変わらない笑顔で俺を抱きしめた。
「良かった」
嬉しい。
けど多分、それだけじゃない。
明らかに俺は、ここに来た時よりもアルベルトを気にしてしまっている。
どうしても姿を見つけると、アイツの行動一つ一つ目で追ってしまう。
「なんか、恋する乙女みたいで気色悪いな俺」
「そんな事ございません!!」
「え、な、なんだ?急に」
「ルウ様!今度はルウ様がアルベルト様に告白をする番ですよ!今の気持ちを素直にぶつけてください!」
俺の独り言を聞いていたのか、隣にいたメイドが今までにないくらい目を輝かせている。
「告白って……いや、流石にガラじゃねぇしな」
「関係ありません!!アルベルト様は絶対お喜びなられます!!そして今度こそ、ルウ様のうなじを噛んでくださいますよ!!」
メイドの言葉に、一瞬胸が躍った。
そう。俺のうなじにはまだアルベルトの噛み跡はない。
番にしたいと言いながら、何故あの日噛まなかったのか聞いてみると「ルウが番にしてほしいと言ったらね」と答えた。
多分アイツなりに、俺の心の準備をさせてくれたんだろうが?
それは普通に有難いし、大事にされてるみたで嬉しいんだが……。
「んな事、俺が言えるかよ!!」
俺の心は既に決まってる。
アイツが望むなら、俺はアイツの番になってもいい。
けど。今までひねくれて生きてきた俺が、今更そんな告白みたいな台詞吐けるわけがねぇ。
恥ずかしくて死ぬ。
「けどなぁ~……」
アイツとのセックスは安心して、気持ち良くて、早くもう一回したいくらいだし。
多分このまま俺が何も言わなかったら、アイツは手も出してこない。というか、あれ以来キスすらしていない。
俺の毛がふわふわで気持ちいいという理由で、抱きしめられることはたまにあるが……。
「せめてまた発情期がくれば……俺も」
って、何考えてんだ!
あんなのに頼ってどうする!
アルベルトは俺のフェロモンに負けず耐えてくれたっていうのに。俺はあんなのに頼らねぇと告白も出来ねぇっていうのか?
「……よし。行くか」
今は休憩時間。
ならば、思い立った今動かねぇと。きっとまたズルズル引きずっちまう。
とりあえず俺は、アルベルトの好きな焼き菓子と紅茶を持って部屋の前に立つ。
まずはもっとアイツと話して、距離を縮めよう。
それで、なんか良い雰囲気になってきたところで告白をーー。
「では。これからもよろしくお願いいたします。アルベルト様」
扉の向こうで聞こえた懐かしい声に、身体が固まった。
ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。
もう、会う事なんてないと思っていた。
いや、会いたくなんてなかったんだ。
ーーガチャ。
目の前の扉がゆっくり開かれる。
逃げられなかった。
逃げることが出来なかった。
「……やぁ。久しぶりだね。ルウ」
扉の前に立っていた俺を目にした男は、下がった眼鏡を指で上げながら、微笑を浮かべていた。
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