9 / 12

第8話

親に捨てられ、Ωとしてどう生きたらいいのかも分からず。たった一人ただ食う物だけを探して生きてきた俺は、ある日。東堂雄二(とうどうゆうじ)という男に拾われた。 金持ちの社長らしく、ずっと恵まれた生活を送っていた東堂は勿論αだった。 周りからは俺を拾う事に反対され、何度も捨ててこいと怒鳴られていたのを覚えている。 けど、それでもアイツは俺を庇ってくれた。 Ωの獣人でも家族になれる。 人間とか獣人とかは関係ないと、そう言ってくれた。 嬉しかったんだ。獣人とかΩとか関係ないと言ってくれたことが。 こんな俺でも、誰かと一緒に生きていいんだと思えたんだ。 けど結局。 そんな幸せは、長くは続かなかった。 ある日。 発情期が来てしまった俺の部屋に、東堂は入ってきてしまった。 あれはただの事故だった。 けど、Ωのフェロモンに負け。俺を犯そうとしたアイツは、正気を取り戻した時。絶句していた。 俺みたいな獣を犯そうとしてしまった嫌悪感。そして絶望に満ちた顔。 そして、最後に言われた言葉はーー。 「最悪だ。気持ち悪い」 だった。 あの後俺は東堂から逃げるように家を飛び出し。そこでたまたま奴隷商人に見つかって、捕まってしまった。 人間もαも信用できなくなり。そして何より、誰からも必要とされない自分と言う存在が嫌いで仕方なかった。 発情期が来ると、いつもあの時の東堂の言葉が頭をかすめ。何度も吐いて、何度も泣いた。 けれど。そんな俺でもアルベルトは強くて優しいと言ってくれた。必要としてくれた。 俺はアイツと番になる。 それを邪魔するというのなら、相手が誰であろうと許さねぇ。 「成程。その為にわざわざ自分から会いに来たと?」 「あぁそうだ。俺はもうお前とは何の関係もねぇ。だからお前も俺を忘れろ」 目の前に座る東堂は、脚を組んで俺の話を静かに聞いていた。 だが、その不敵な笑みだけはずっと崩れない。 「忘れろ……ね。よくそんな事が言えたな。ルウ」 東堂の冷たい声に背筋が凍り。ゾワッと毛が逆立った。 嫌な予感がする。 「ルウ。君には新しい相手が出来たおかげで、過去の事だって忘れられるかもしれない。けれど私は、あの日からずっと後悔してるんだ。どうしてあの時君にあんな酷いことを言ってしまったのか。どうしてあの時君のフェロモンに負けてしまったんだ……とね」 「お前っーー!?」 東堂が立ち上がった瞬間。 腕に痛みが走った。 「どうも~。Ωの獣人さん~」 東堂に気を取られていたせいで、背後に居たジルとかいう獣人に気が付かなった。 「いっつ……」 腕には注射器で刺された痕。どうやら俺は何かを打たれたらしい。 「一体、なにを」 じわりじわりと目の前が霞んでいく。 襲い掛かるとてつもない眠気。そこで俺が何を打たれたのか分かった。 これは、マズい。 気を付けてって言われたのに……アルベルト。結局俺は……すまない。 「なに。ちょっとばかし眠ってもらうだけさ。心配するな。今度は君を手放したりはしない」 「とう、ど……」 ぼやけていく東堂の胸倉を掴もうと足を前に出したところで、俺の瞼は落ちるように閉じていき。そして意識を失ってしまった。

ともだちにシェアしよう!