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第8話
親に捨てられ、Ωとしてどう生きたらいいのかも分からず。たった一人ただ食う物だけを探して生きてきた俺は、ある日。東堂雄二 という男に拾われた。
金持ちの社長らしく、ずっと恵まれた生活を送っていた東堂は勿論αだった。
周りからは俺を拾う事に反対され、何度も捨ててこいと怒鳴られていたのを覚えている。
けど、それでもアイツは俺を庇ってくれた。
Ωの獣人でも家族になれる。
人間とか獣人とかは関係ないと、そう言ってくれた。
嬉しかったんだ。獣人とかΩとか関係ないと言ってくれたことが。
こんな俺でも、誰かと一緒に生きていいんだと思えたんだ。
けど結局。
そんな幸せは、長くは続かなかった。
ある日。
発情期が来てしまった俺の部屋に、東堂は入ってきてしまった。
あれはただの事故だった。
けど、Ωのフェロモンに負け。俺を犯そうとしたアイツは、正気を取り戻した時。絶句していた。
俺みたいな獣を犯そうとしてしまった嫌悪感。そして絶望に満ちた顔。
そして、最後に言われた言葉はーー。
「最悪だ。気持ち悪い」
だった。
あの後俺は東堂から逃げるように家を飛び出し。そこでたまたま奴隷商人に見つかって、捕まってしまった。
人間もαも信用できなくなり。そして何より、誰からも必要とされない自分と言う存在が嫌いで仕方なかった。
発情期が来ると、いつもあの時の東堂の言葉が頭をかすめ。何度も吐いて、何度も泣いた。
けれど。そんな俺でもアルベルトは強くて優しいと言ってくれた。必要としてくれた。
俺はアイツと番になる。
それを邪魔するというのなら、相手が誰であろうと許さねぇ。
「成程。その為にわざわざ自分から会いに来たと?」
「あぁそうだ。俺はもうお前とは何の関係もねぇ。だからお前も俺を忘れろ」
目の前に座る東堂は、脚を組んで俺の話を静かに聞いていた。
だが、その不敵な笑みだけはずっと崩れない。
「忘れろ……ね。よくそんな事が言えたな。ルウ」
東堂の冷たい声に背筋が凍り。ゾワッと毛が逆立った。
嫌な予感がする。
「ルウ。君には新しい相手が出来たおかげで、過去の事だって忘れられるかもしれない。けれど私は、あの日からずっと後悔してるんだ。どうしてあの時君にあんな酷いことを言ってしまったのか。どうしてあの時君のフェロモンに負けてしまったんだ……とね」
「お前っーー!?」
東堂が立ち上がった瞬間。
腕に痛みが走った。
「どうも~。Ωの獣人さん~」
東堂に気を取られていたせいで、背後に居たジルとかいう獣人に気が付かなった。
「いっつ……」
腕には注射器で刺された痕。どうやら俺は何かを打たれたらしい。
「一体、なにを」
じわりじわりと目の前が霞んでいく。
襲い掛かるとてつもない眠気。そこで俺が何を打たれたのか分かった。
これは、マズい。
気を付けてって言われたのに……アルベルト。結局俺は……すまない。
「なに。ちょっとばかし眠ってもらうだけさ。心配するな。今度は君を手放したりはしない」
「とう、ど……」
ぼやけていく東堂の胸倉を掴もうと足を前に出したところで、俺の瞼は落ちるように閉じていき。そして意識を失ってしまった。
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