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#3-3
もうずっと熱いままだ。でもついさっきまでの、部屋で一人で抱えていた、身体が塗り変わっていくような熱さとは違っていた。
御しきれない欲が肌から溶け出し、汗になってじっとりと黒い被毛を濡らしていく。
頭がくらくらして、何も考えられない。
もうダリのことしか見えなかった。
狭い後孔を猛った欲で貫きたい。拒むなんて許さない。強すぎる衝動が獣の身体を支配している。
「っぐ……、ぅ、あ、……っ」
ダリが切れ切れに濁った声をあげる。鋭く尖った爪は、白い肌を容易く裂いた。
傷つけたくないのに、ダリの痛がる顔を見たくないのに、滲む涙にも構っていられない。
掴んだ腰に爪が食い込む。
流れる鮮血の生々しい匂い。
むせかえるような甘さと混じる。
ああ、これがダリの匂いなのか。
口の中に唾液が溢れて止まらない。
もっと欲しい。
「ひっ……ぁ、あ゛ぁっ……!」
かたく閉ざしたままの蕾をこじ開けるように、押し当てた怒張を進める。
細い腰を、骨が軋むほど強く引き寄せて。
柔肉の裂ける感触が伝った。
誰も受け入れたことのないそこに、僕の熱の塊が一息に埋まる。
「あ、っが、ぁ……あ……」
零れ落ちそうなほどに目を見開くダリの顔は青褪めていた。痙攣する下肢を開かせたその中心で、ダリの雄は萎えきっている。
腰を引くと、血と粘液を纏った芯がずるりと抜ける。
強張った肉筒は、抜くのにも押し込むのにも酷く抵抗して、それを割り開くのがたまらない快感になった。
エメラルドの瞳が涙でしとどに濡れている。
ダリ、かわいそうなダリ、僕の夢見ていたのはこんな交わりじゃなかったはずなのに、どうしようもなく満たされていくのを感じるんだ。ずっと昔から君のことをこんなふうに暴いて、泣かせて、消えない傷をつけてしまいたかったような気さえするんだ。
獣に犯されて喘ぐ君の、なんて健気で憐れで、食欲をそそる事か。
「ひっ……ぁあ、っ」
ずたずたに引き裂いた衣服から覗く肌。衝動のままに噛みついて、爪を突き立てて、湧き上がる血を舐めた。美味しい。ダリは血まで甘い。
夢のように揺らめく視界で、ダリの奥を繰り返し強く突き上げ、子宮に向けて精を放った。
アルファの長い射精の間にも、腰が止められないまま無慈悲な抽送を続け、萎える間もなくまた内臓を穿つ。
そうやって愛しい肉体を貪り続けた。
「あ、カイト、きもちいいよ……カイト、っ」
そんなわけないのにダリは言った。
何度も、気持ちいい、と口走った。
自ら腰を揺すりさえして、血を流すそこから切なげな水音をさせた。
「カイト……俺、きもちいい、から」
見上げてくる顔に弱々しい笑みまで浮かべて、ダリは僕に向かって手を伸ばした。
今の僕ならひとひねりで折れる、白く細い腕。
ごわごわの毛に覆われた僕の頬に、冷たい指先が触れた。
「大丈夫だから……そんな顔するなよ」
ああ……ダリはわかるの? 僕の表情が。
こんなにも醜い化け物になった僕の感情が。
守りたかったはずの愛しい人を、喰い殺したくてたまらなくて、そんな自分が恐ろしくて今にも気が狂いそうな僕の、真実が。
「大丈夫だ、カイト、大丈夫」
ダリの腕が首に回される。棒きれのようにされるがままだった脚までもが、太くなった腰に絡められ、震えながら僕を深く引き寄せた。
「ずっと一緒にいよう。愛してる」
後ろ頭に手を添えられ、犬のような形に変化した鼻筋が、ダリの首元に押しつけられた。
途端に鼻梁から肺をーー全身を満たす、蕩けるような甘い匂い。
「俺と番になろう。カイト」
目の前に赤い色の欲が火花になって散った気がした。それはあまりにも抗いがたい誘惑だった。白い首筋からたちのぼる蜜のような香り。とく、とく、と秘めやかな音を奏でながら、ダリの命がそこに通っている。脈を打っている。
ダリの指が被毛の間に差し込まれる。頭から首、肩、背中へとゆっくり滑って、僕の汚らわしい身体を、宥めるように撫でた。
ほとんど紫に変色した、乾いた唇が。
それでも慈しむように笑って。
「大丈夫。ずっと一緒だ」
ああ、ダリ。
ずっとこうして触れたかった。光の色をしたブロンドに。白磁の肌に。すべらかなうなじに歯を立てて、僕のものにしてしまえたら。ずっとずっと願っていた。
瞬くたびに獣の瞼に色がうかぶ。
君と過ごした夏の野原、しんと冷えた夜空に白い息を浮かべて笑った冬、木陰に煌めく陽の光。
君といつまでも遊んでいたかった。
やわらかい肌に牙の先端が食い込み、そのまま突き破る。
果実が弾ける感触と共に熱い血潮が迸る。
ダリの血流は海だった。母のように僕を抱き、満たし、許す波だった。
そのやさしい渦を僕は獣の舌で受け止めて、喉の奥へとダリを迎え入れる。脈打つあたたかさに臓腑が溺れていく。
愛おしくてたまらない。
ダリ。これで僕のものだ。
すべてを忘れても僕は、君のなまえだけはわすれない、ぜっ対に。
ああ。
しあわせだ。
ぼくの、たいせつな
ぼくらはきっとずっとまえから
ダリ
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