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第7話
「な……ぁ」
「二人とも混乱してた。俺はフェロモンにあてられ、お前は発情期にあてられ。でも、あの瞬間では合意だった。"きみならきっと大丈夫"確かにお前はそう言った。…やはり、覚えてないか……?」
静かに肯定するとすまん、と謝られた。
それが胸にチクリと刺さりさらに萎縮してしまう。
「お前の身体を考えると番の解消は得策じゃない。Ωの負担が大きすぎる。それに十中八九、妊娠もしているだろうしな。子供のことを考えるとオレは……」
膝の上で握られた拳を優しく包む。
挙げられた顔は先ほどよりも悲しそうだった。
「街中のβに、襲われたときは……嫌で仕方なかった。でも、お前…。全然嫌なやつじゃ、ない。だから、たぶん。昨日の俺は、そんなこと言ったんだと、思う……」
しっかりと目を見て伝えた。
物心着いた頃にはすでに親はいなくて、盗みをすることしか知らなくて。
露店街 の近くのこの小屋を見つけてすぐに発情期を迎え、納め方も手探りで一人きり。
襲われた時だって、βしかいなくて俺はほぼほぼ性処理の役割しかなかった。冷たく怖い経験だった。
家族も他人の温度すらも知らなかった俺が、
誰かに優しい温もりを与えられている。
それがすごく嬉しかった。
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