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第5話
「ユキ! ユキ!! ユキ!?」
帰ってきた青は直ぐにユキを探し回った。ユキは何処にもいない。
「ユキ? ユキは何処??」
家中を探し回っても、何処にもユキは居なかった。
「青、すまない。ユキは森に返した」
「え…… なんで……」
「ユキが森に帰りたがったんだよ。俺も気持ちは解るが…… ユキは俺より更に野生的だから本能では森の中の方が幸せなんだ」
「待っててくれるって言ったのに、嘘だ!! ユキ!! 僕のユキ……」
青はユキに会えるのを楽しみに帰って来たのだ。
何故、このこの前の夏休みに帰って来た時は居たのに。
何時もの様に懐いてゴロゴロして、いっぱい撫でさせてくれた。
離れる時も結婚しようねと約束して、ユキは頷いてくれたのに!!
「ユキを探してくる!」
「無理だ。こんな広い森の中でユキをみつけるなんて」
「ほっておいて!」
青は黒に怒鳴ると城を出ていく。
「ちょっと青!」
「白、いいよ。青は反抗期なんだ」
青を引き留め、叱ろうとする白を止める黒。
青はもう10歳になっていた。
青には申し訳ないが、こうするしか無いのである。
青が出て行ってから直ぐであった。ユキは黒の元へよく訪れる様になった。豹仲間なので落ちつくのかも知れない。
「お前も青が居なくて寂しいんだな」
ヨシヨシとユキを膝に乗せ、撫でながら執務に当たっていた。
ユキはそれをいつも眺めていたのだが、ある日、紙の上に手を置いた。
いつも大人しくしているユキが仕事の邪魔をするのは珍しい事であった。
「悪いがユキ、仕事の邪魔はやめてくれ」
そう言って膝が下ろそうとしたが、珍しく嫌がる。
ユキは手を置いていると言うより、見てくれと訴えている様であった。
黒はもしかしてと、その文字を見る。「べ?」 最初に押しているのは『べ』でる。
「ユキ、何かを文字で伝えたいのか?」
そう尋ねて見れば、ユキは頷いて見せる。
黒は驚いた。本来、魔力もなく知能も持たずに産まれた半獣が知能を持つ事など有り得ない。
いや、そもそも理性が無い為に、知能を持とうなどと考える脳すら無いはずであるが、元々ユキには理性が有る様に見えた。
ユキは本当に凄い獣なのかも知れない。
黒は直ぐに五十音順の表を作り、ユキの前に置いてみた。
もう一度、ユキは『へ』と『゛』に手を置く。
「べ」
そう声を出す黒に、ユキは更に手を動かした。
「ん、き、よ、う、勉強? 勉強したいのか?」
ユキの指し示した文字を読み、尋ねれば、ユキは頷くのだ。
「すごいぞユキ!」
勉強したいと言う文字を指せるだけで、文字と意味を理解していると言う事である。
黒は思わずユキをワシャワシャと激しく撫で回すのであった。
その日から、黒はユキに講師をつけた。ラオンである。
ラオンは黒の幼馴染であり、今、魔物界の方を任せているのであるが、優秀な部下も居ると言うので、少し来てもらうぐらい問題は無いだろう。いつの間にかラオンも結婚し、子供が居る様だ。
「この子がユキちゃんですか。わぁ、めっちゃ美人じゃないですか」
「ユキヒョウなんだ。珍しいだろ? 人間に捕まると悪いからあまり外に出してやれんのだ」
「ちょうどウチの息子も三歳ぐらいになりますし、一緒に勉強を教えるのはどうでしょうか」
「宜しく頼む」
「しかし、獣として生まれたのに勉強したがるなんて本当に珍しい……」
「だろ? 俺もビックリしたよ」
ハハッと笑う黒に、ラオンもつられて笑った。
それから、週に一度のラオンによるユキとラオンの息子の勉強会が始まったのである。
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