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第7話
その日の外の賑わい様に青はげんなりしていた。
青の婚活パーティにイオは国内外から女と言う女を集めまくり、もしかしたらと魔物にまで手を伸ばし、更にもしかしたらと男性Ωまで集めた様である。
城の外では開場はまだかまだかとひしめき合う女女男女女魔物である。
青はやっぱり断れば良かったと溜め息しか出ない。
部屋の外では使用人達が掃除やら料理作りやら会場の準備に追われ一生懸命である。青も綺羅びやかな衣装を着せられ部屋で待機中だ。
あぁ、嫌だなぁ。今更やめるとか…… 無理だよな……
青はまた何度目かの溜息を漏らす。
何気なく中庭に目線を向けた。中庭は静かなものである。だがそこにもロマンチックな演出を醸し出そうとランタン等が置かれていた。
そう言えば、家は両親が庭いじり好きだった為に庭師は雇わず、両親がしていた筈だ。しかし両親は今、隠居して森の奥でイチャラブしてる。家の庭はどうなっているんだろう。
今更ながら気になる。時間まで暇な事もあり、青はそっと部屋を抜け出して中庭に向かった。
日は既に落ち、薄暗い中であるが、ランタンの灯りが明るく庭を照らし出していた。
ちゃんと整備されたいる様だな。
そう思いながランタンの明かりを頼りに歩いた。
花々も綺麗に咲き乱れている。
青は最近忙しく、花も目に止まらない程で有った。だが、やはり花を見ると気持ちも安らぐ物である。こうして散歩するのもストレス発散には良いかも知れないなぁと思った。
そう言えば、いつも部屋に花瓶にが用意されていた気がする。いつの間にか花は変えられていたが、あれは誰が変えていたのだろう。青は殆ど執務室におり、自室に行くのは寝る時だけだ。おそらく青が執務室に居る時に寝室の花を生け、また青が寝室に向かったら執務室の花を変えているのだろう。
そこまでして城主に会いたくないのか? 青は若干苛つきを覚える。そもそも赴任した時に挨拶に来るものでは無いだろうか。全く失礼である。馬鹿にされた気分だ。
庭師の野郎、何処に居るんだ??
青はこの際庭師の顔を拝んでやろうと、ランタンの道から外れる。最近は来て居なかったが、あくまでも自宅の庭である。作りは熟知していた。
奥に馬小屋が有り、その向こうに資材置き場が有る筈だ。そこに居なければ城の中であろう。
後でイオにでも庭師の部屋を教えて貰えば良い。
そんな気持ちで青は馬小屋の方へ足を向た。
既に外は暗くなっているが、今日は満月。月明かりで良く見た。
馬小屋に明かりが見える。誰か居た。
青は何となくソッと近づく。
ソイツは馬の世話をしている様であった。馬小屋も庭に近い為、これも庭師の仕事になっているのだろうか。
それともコイツは庭師ではなく調教師なのか?
どいつもこいつも城主に挨拶もなしか……
ちゃんと挨拶してくれている使用人は全て顔も名前も全部覚えている青である。
「おい、お前」
青は少し不機嫌な顔で相手を呼んだ。入口から見る辺り人間ではない。魔物か……
城には魔物も仕えているが、殆どが戦闘要因である。それが庭師、または馬の調教師とは珍しい。
少しビックリした様に振り向いた獣と目が合う。一瞬、ユキだと思った。
でも違う。僕のユキは綺麗なユキヒョウ。
コイツはただ普通の茶色い豹だ。瞳も普通の茶色いである。
「は、あ、う……」
普通の豹は此方を見ると更にビックリし、慌てた様に頭を下げる。
「庭師か? それとも馬の調教師か? どっちにしろ俺に挨拶無しとは良い度胸だな」
青はズカズカと歩み寄り、豹を睨む。
「もも、申し訳、アリマセン……」
「言葉遣いが少し変だ」
「うう、上手く喋れナイです」
「へーー」
言われてみれば二足歩行も少し危なっかしい様な気もする。
「まぁ、良い。名前は何だ。受け持ってる担当は?」
「ハイ、庭師と馬の世話してマス。名前は…… ジョンです」
「解った。何で挨拶に来なかった。失礼だとは思わなかったのか?」
「イソガシソウダッタ……」
「なるほど……」
どうも悪気は無さそうであるし、凄くオドオドして今にも泣きそうだ。何だか弱い者イジメをしてる気分になってきた。
「もう良い。俺は主の青だ。部屋の花を変えてくれているのもお前か?」
「ワタシです」
「そうか、有難う。次は俺の居るときに変えに来てくれ。勝手に花が変わってるのは少し気味が悪い」
「それは気づきマセンでシタ…… ゴメンナサイ」
「もう良い。俺も態度が悪すぎたな。初めましジョン…… あまりジョンて感じじゃ無くて違和感だ」
なんか可愛い感じな気がする。ジョンみたいな男らしい名前はちょっと合わないな。
「ソウですカ? 名前、付けてクダサイ」
「え? 良いのか?」
「主の呼びやすい名前イイです」
「そうだな……」
青は少し考えてみる。
「面倒臭いから庭師とでも呼ぶ。だが他の庭師も居るのか??」
「イマセン。私、ヒトリ。向こうの小屋スンデル」
「は? あの物置小屋?? 城に部屋つくるのに……」
「イイデス! 私、あそこ気に入ってマス!」
「変わってるな……」
一応獣だし、図体もデカイが…… あそこで本当に大丈夫だろうか?
ちゃんと寝れてるか??
「あ!」
「あ?」
急に大きな声を上げる庭師に驚く青。急にどうした?
「主、パティー聞きました! 時間! ダメ!!」
慌てた様に言う庭師にハッとして腕時計に目をやる。ヤバイ時間が過ぎてしまっている。
「ヤバイ、行かなきゃ!」
「私のセナカ乗ってクダサイ」
「いや、直ぐそこ……」
歩いても5分ぐらいである。
しかし庭師は背中に青を担ぐ様にして乗せると4足で走り出した。
めっちゃ早い。
直ぐに中庭に抜け、入口に辿り着いた。
「有難う」
「スミマセン、私、バカ。馬使えばヨカッタ……」
「ハハ、そうだな」
息を切らせつつ、落ち込んだ様子の庭師に思わず爆笑してしまう青なのであった。
「あ!! 王!! 探したんですのよ!」
直ぐにイオが駆け出してくる。
「もう、何処行ってるんですか! 逃げたかと思いました!!」
どうやらイオはカンカンだ。
「すまん。庭師と挨拶してなかったと思ったら気になったんだ」
「気になる時と場合を考えて下さいね! ユーも! 王、お前の毛だらけじゃないか!!」
「ごめん。イークン僕バカ」
「言い過ぎた。ユーくん馬鹿じゃないよ」
イオはヨシヨシと庭師の頭を撫で、青を引っ張ると直ぐに場内に入るのだった。
歩きつつ、青に付着してしまった毛を払う。
途中、掃除をしていたメイドからコロコロを奪い、青にコロコロした。
青は一つ気になる事がある。
さっきイオは『ユー』と呼ばなかったか?? アイツ、ジョンじゃ無かったけ??
「なぁ、さっきの庭師、ジョンじゃないのか??」
「は?」
大広間手前でやっと毛が取れ、さーて入るぞと言う時に急に何なのだと、イオは青見る。そしてハッとした。
アイツ、『ジョン』って名乗ったのか……
名前は考えていなかった。
「あ、はい、いや、名字ですよ。アイツ、ジョン・ユータイガーって言うんです」
「へーー、豹なのにタイガーとは、ご先祖に一体何が有ったんだろうな」
「さぁ? 最初は虎だったんじゃないですか?」
イオは冷や汗まみれである。焦って間違えちゃったよ〜〜
「もう、そんな話しどうでも良いじゃないですか! 時間押してるんですから早く入って下い!! 皆お待ちかねなんですよ!」
「解った解った」
グイグイ背中を押すイオに青は頷いて大広間の扉を開けるのであった。
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