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第12話
朝目覚めた青は直ぐ様身支度を整えユーの小屋へ向かった。
イオを呼んだが来なかったので仕方ないく置き手紙を残した。来ないアイツが悪いが昨日喧嘩したばかりであるし、何もせずに向かう訳には行かなかったのだ。
しかし、王が呼んでも来ないとは何事か。昨日喧嘩したばかりだと言うのに怠慢じゃないだろうか。
青は少しプリプリしつつユーの元に向かうのであった。
しかし途中から何か甘い誘うような香りを感じ、気になる。
花の香りだろうか……
青は誘われる様に匂いの元を辿る。ついたのはユーの小屋であった。
この匂いは花なんかでは無いとそこで気付く。
発情したΩの香りだ!
その時だ。
「ヤメ……イヤ……」
と言う弱々しいユーの声が聞こえたのだ。
発情したユーが誰かに襲われている!!
青は沸々と怒りが溢れ、殺意さえ覚えながらドアを蹴破っていた。
目の前に広がるのはユーを押し倒しているイオの姿であった。
青は思わず走り寄り、イオとユーの間に割り込むと、イオの喉元に短刀を突きつけた。
「俺のΩだ!」
そう怒鳴っていた。
イオはハッとした様に飛び退く。
「すみません、私とした事が…… 飛んでもない事を……」
イオは青とユーを見ると顔を青くし、その場から逃げる様に立ち去った。
「大丈夫か?」
青はユーを確かめる。その瞳は潤み、怯えている。
それが何とも言えず色っぽいのだ。
青は興奮を覚えつつ、ユーの首筋を確認した。幸い噛まれた跡はない。
ホッとする青。
「イオを怒らナイで! ワタシが悪いんデス!」
ユーは気が動転している様で、上手く喋れない。
「何故あんな奴を庇うんだ。お前を襲ったんだろ?」
どう見ても抵抗していた。それなのにイオを庇う様な事を言うユーに、青はイラッとしてしまう。
「チガウ、イーくん悪くナイ。私がハツジョウしてしまって、アタラレタ」
「Ωの発情に宛てられるアイツが悪いに決まっている!」
αならばΩの発情にあてられない様に気を付けるべきだと青は思っていた。青はΩの発情に当てられた事など無かった。それが普通だと思っているのだ。実際は親譲りのαの中でも頂点に立つべき優秀なαである為の性質である。
普通のαであるイオが予防せずにΩの発情に当てられない事の方が難しいのであるが、青はαは皆気力で何とかやり切れる、当てられる奴は意志が弱いヤツだと思い込んでしまっているのだ。
「チガウ! イーくんセメナイで!」
ユーは昨日喧嘩したばかりの青とイオにこれ以上亀裂が生じてしまうのを危惧し、恐れていた。
昨日のは売り言葉に買い言葉であったとユーは知っている。イオは青を誰よりも大事に思う忠実な家臣であり、青を尊敬しているし心配もしている。誰よりも青の事を考えいる。それは幼い頃から一緒に育ち、良く青の話を聞かされていたユーには解るのだ。だから仲違いして欲しくない。
「じゃあ俺が今ここでお前を番いにしても良いな? 俺は今ユーの匂いに当てられたんだ。文句言いうなよ!」
怒りに支配されてしまっている青にはユーの言葉は火に油を注ぐ様なものである。
青はもはや嫉妬と怒り、そしてユーの放つ甘い香りに理性を失っていた。
「ナ!?」
「は……」
青は力任せにユーのパジャマを引き裂いていた。
飛び散るボタン。
焦るユーと、驚く青。
青が驚いたのはユーの首元に下がるネックレスだ。その先の飾りを手に取る。
「これ……」
僕がユキにあげた…… もしかして、ユーはユータイガーだからではなく…… ユキ?
「ユキ? なのか……」
「チガ……」
ユーは焦って頭が真っ白だ。どうしよう……
「じゃあ何でこれを君が……」
青は詰め寄る様にユーを至近距離から見据える。
「友達の…… 遺品」
ユーは何とか言葉を絞り出す。
「なっ……」
ユーの言葉にショックをうける青。確かユーはユキと同じ豹だ。母も豹だからユキの気持ちが良く解る様だった。仲間になれたのかも知れない。
「ユキは…… どうして?」
なぜ……
「マモノにオソワレた」
「魔物に……」
だから森になんて帰すのでは無かったのだ。父と母がユキを殺した。
「お墓は?」
ユーは首を振った。きっと骨ごと食べられてしまったのだろう。
僕のユキ……
僕のユキはもう居ない。
青は絶望に打ちひしがれる。何故僕はユキから目を離してしまったのだろう。
やはり学校になんて行くんじゃなかった。
ユキ……
ユキ……
いや、ユキは居る。
目の前に……
「ユキ」
青はギュッとユーを抱き締めた。溢れる涙は止まらないけど。この子はユキだ。
ユキが帰ってきてくれた。
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