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第14話

 頬の冷たさに目を覚ました青は頬を押さえる。ほっぺた痛い…… 「申し訳ありませんでした。主」  弱々しい声に見ればユキが泣きそうな顔で氷水を持っていた。それで頬を冷してくれていたのだろう。 「僕こそ…… 悪かった」  あの時、完璧にΩの匂いにのみ込まれていた。  目の前にいるΩを番にし、孕ませなければという事しか考えられなかったのだ。急に頬に痛みが走り、気を失ったが助かった。  でなければ今頃自分はユキを酷く傷向けていた。  ユキ? 「え? ユキ??」  目の前に居るのは白くて瞳の青い瞳の……       間違い。僕のユキだ。  え? え?  青はベッドから飛び起きて混乱する。  寝ぼけているのかとも思ったが、頬の痛みは夢では無さそうだ。 「主、あの、取り敢えずお約束したのでハーブティーでも……」  「あ、ああ有難う」  寝起きにハーブティーが飲みたいと言ったのを覚えていてくれたらしい。そもそも青はユーの所へハーブティーの催促に行ったのだ。  ユキから受け取ったソレを一口飲めば、少し気も着く。 「えっと…… ユキ?」 「はい」 「ユーは?」 「私です」  「だよな」  ベッドに腰掛けたままマジマジとユキを見てしまう。どっからどう見てもユキだ。  相変わらず可愛いなぁ。 「貴方を騙す様な真似をしてしまい、申し訳有りません」  ユキは膝をついて頭を下げる。 「理由を聞かせて欲しい」  何故ユキはこんな酷い事をしたのか、青には検討がつかなかった。  ユキが消えてどんなに悲しかったか、ユキが死んだと聞かされてどんなにショックだったか。 「はい、まず、私は貴方が好きです」 「僕もユキが好きだよ」 「今でもですか?」 「勿論だ!」  青もベッドから降りてユキの前に膝をつく。  瞳を合わせた。 「私は…… 怖かったのです。いつか貴方が私への愛を親愛だと気付いてしまうのが…… 他の女性と結婚してしまうのが怖かった」  小さい声で苦々しい顔で呟くユキ。 「そんな訳無いじゃないか! 僕はユキを心の底から伴侶にしたいと思っているし、ユキと結婚して僕の赤ちゃんを産んで欲しいと思ってるよ」  青は思わずユキの手を取って握りしめた。 「身分が違いすぎます」 「そんなの関係ない。ここには身分の違いをとやかく言う者等いないよ」  不安そうな顔をするユキに握る手にも力が入ってしまう青。 「本当に、私で良いのですか?」 「ユキが良いんだ!」  青は声を荒らげた。  昔っからずっとそう言っているのに。 「貴方に嫌われるのが怖くて私は貴方から逃げてしまった。きっと貴方はいつか私の事なんて忘れてしまうと思っていました」 「馬鹿だな。何で変装までしたんだ。そうでなければ直ぐに気付いて抱き締められたのに……」  青は涙目になりながらユキを抱きしめる。 「私はまだ怖い。貴方がいつか正気に戻り、こんな獣は嫌だと気付いてしまわないか。きっとずっと怖い……」 「本当に臆病なんだユキは……」  恐怖で震えてしまうユキを青は優しく抱きしめてキスを贈った。  昔っからユキは怖がりで臆病で、よく震えていた。それを撫でて落ち着かせるのが青の役目であった。  青はそれを思い出してユキの背中を撫でる。 「そんなに心配ならば僕の番になれば良い」  寧ろ僕も心配だから早く番にしたい。 「Ωからは無理ですが、αからは切り離せてしまいます」 「どうしたら信じてくれるのかなぁ?」  心配症のユキに苦笑してしまう青。もう10年以上追いかけていると言うのに今更他の人が好きになるなんてあり得ないのに。 「ユキ、僕の事はそんなに信じられないの?」  青な困ってしまい、首を傾げる。僕はユキに嘘をついた事なんてないし、約束を違えた事も無いのに…… 「そう言う事では無いんです……」  ユキも困った様に目線を彷徨わせた。  ユキ本人もどうしたら良いのか解らないのである。 「じゃあさ、取り敢えず結婚式を上げて、番になって、僕の子供を孕んでみない? 悩むのはそれからでも遅く無いと思うんだけど」  だって今現在両想いなのだから! と、青は提案してみる。  それにユキは心配症だし、早く自分の物にしてしまう他無さそうだ。 「そうでしょうか?」 「そうだよ!」  ユキも首を傾げつつ、話に乗ってくれそうだ。青は嬉しくなりユキを抱き上げるとそのまま大広間に向かって駆け出した。  丁度今日でパーティは最終日。嫁を決める日である。

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