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第2話
「お待たせしました、ハニーカフェオレでございます」
七緒はカウンターからコーヒーカップを差し出し、笑顔を作った。
半年前から、このカフェでアルバイトをしている。
駅前の大通りから一本脇道に入ったところにある二階建ての洋風チックな店で、店長自慢のシフォンケーキが人気で雑誌に掲載された事もあり、写真映えすると口コミで広がって、わざわざ遠方からやってくる客も多い。
まだまだ慣れない事が多く失敗する事もあるけれど、アットホームな雰囲気がとても良くて気に入っているし、従業員も皆親切だから心地よい。
ここでバイトをしていて良かったと思う理由は他にもある。それは、この場で人生初の恋人を見つける事が出来たという事。
決まってホットカフェオレを注文して、二階の陽の当たる窓際の席に座る常連客だった。
「いつもありがとう」と感謝の言葉と共に渡されたのは、ラインのIDが書かれた一切れの紙だった。
漫画みたいな運命の出会いって本当にあるんだなぁと感激したものだ。
もうすぐ交際三ヶ月になるけれど、客と付き合ってるだなんて恥ずかしくて言えなくて、店の人達には内緒にしている。
向こうは社会人だし、仕事が忙しいようだからあまり会えないけど、この店に顔を出して注文して、七緒が作ったコーヒーを喜んで受け取ってくれる。
それだけで幸せなのだ。
「俺、二階行ってきますね」
閉店間際に店長に声を掛け、誰もいない二階へ上がった。
ダストボックスの中身を片付けて、各テーブルを布巾で拭いていく。
窓際の席を拭く時は、いつも穏やかな気持ちになる。
今日は会えなかったけど、先週は来てくれた。それに今度の日曜日、久々にデートに行く予定なのだ。
顔が蕩けてしまいそうになるのを抑えながら、ブラインドの紐に手を掛けた時だった。
何気なく格子窓から外の景色を見下ろした七緒は、驚愕して目を見開いた。
バイト前に会った奇妙なニット帽の男が店の前に立っている。
七緒が窓から顔を覗かせるのをまるで待ち構えていたかのように、こちらをジッと見上げて。
目と目がバッチリと合ってしまい、慌ててブラインドを閉じて窓から離れた。
心臓がバクバク言ってる。
恐怖だ。
ストーカーだ。
いつからあそこにいたんだろう。
いろんな思いを絡ませて半泣きになりながら、ドタドタと階段を駆け下りた。
「店長!俺、ストーカーされてるっぽいです!外に来てます!」
最後の客の見送りをしてドアを閉めたばかりの店長に泣きつくようにしがみつく。
「ストーカー?」とポカンとする店長は言われるがままもう一度ドアを開け、外を見渡した。
「で、何処にいるの?そのストーカーって」
「あ、あれ……間違いなくそこにいたんだけどな……」
たった今見かけた筈なのに、その姿は何処にも無かった。
見間違いか。いや、でも確かに目が合ったのだが。
逡巡していると「ほら、もう閉店にするぞ」と店長は呆れたように七緒に言い放ち、先に店の中に引っ込んでいってしまった。
なんだか狐につままれたような思いで、七緒はドアの前にCLOSEと書かれた看板を立て掛けた。
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