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第5話

「あのっ!」 声が少し裏返ってしまい情けなく思ったが、後に引けない七緒は男にずんずんと近づく。 背が高く鼻筋が通っていて、綺麗なアーモンド型の目をしている男の前に仁王立ちになり、大きく息を吸い込んで一気に言い切った。 「そういうのやめてもらえます?そんな事されても全然面白くないし、付き合ってられる程暇じゃないんでっ?」 「ふふふっ」 途端に吹き出されて、ぽかんとしてしまう。 その男は口に拳を当てながらくすくすと笑っている。 「何笑ってるんですか?もう俺の事つけ回すのやめてくださ……」 「ご主人様、全然変わってないね。そうやって怒るときに目ぇパチパチさせんの」 そう遮った男の言葉に、目を瞬かせるのを意識的に止めた。 興奮した時に瞬きを多く繰り返してしまうのは昔からの癖だ。 変な呼び名にも腹が立って、七緒はふるふると顔を横に振った。 「あ、俺はご主人様ではありません。そういった趣向をお持ちなら他を当たってください」 「何言ってんの?意味分かんない。ていうかやっと話しかけてくれた。一回で俺だって気付くかと思ってたのに。何で逃げてんの?」 今度は腰に手を当て、溜息を吐かれる。 何だ何だ、この馬鹿でかい態度は。 「に、逃げるに決まってるだろ?犬の鳴き真似する奴にジッと睨まれたりしたら」 「ワンッ」 目の前で急に声を出されたから、怯んで一歩下がる。 そっくりというか、リアル過ぎるその吠え方に思わず拍手喝采しそうになったがぐっとこらえた。 「はい、お上手お上手。もしかして声優さんか何かかな?そういう特技はこんな平凡な場所で披露するのではなく、ぜひステージで」 「ねぇ、本当に分かんないの?俺の声忘れちゃった?ちょっとショックだなー。えっとじゃあ……」 男はいきなり腕をやんわりと掴んできて顔を近づけ、距離を詰めてくる。 「目、見てよ。よく見て。俺だよ」 「……えっ?誰?」 「マルだよ。シェルティーの。俺の事ずっと飼ってたじゃん、ご主人様」 ――マル? 目を白黒とさせる七緒に男は柔らかく笑んで、ブラウン色に煌く瞳でじっと見つめた。

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