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第6話

どうやらこの男は、自分がシェルティーのマルを飼っていたという事を知っているらしい。 数秒、刻が止まったかのように七緒も動きを止めて男をジッと見つめ返した。 「……マル?」 感慨深く呟くと、自称マルはパァッと顔を明るくさせる。 「分かってくれた?ご主人様!そうだよ、マルだよ!」 「……あぁ、マル。本当に、あのマルなんだな?」 「そうそう、俺俺!マル!!」 親指を立てて自分を指さす男にくるりと背を向けて、七緒は一目散にその場から駆け出した。 ヤバい奴だな。 新手の俺俺詐欺か。 最近の若者はこんな手の込んだ悪戯をするようになっただなんて世も末だ。 とにかく、大事なマルの名前を勝手に使ってふざけるだなんて腹立たしい。 あんな奴に構うだけ時間の無駄だと思い、もう二度と関わらないようにしようと心に誓う。 しかしその誓いは呆気なく崩れ去った。 アパートに帰ってみると、七緒の部屋の前で自称マルが腕組みをして立っていた。 「ねえ、ご主人様って走るのが趣味なの?どう考えたって俺の方が足速いのに」 「ちょ、ちょっと待てよ……」 一旦落ち着こうと、膝に手をつきながら自称マルにタイムを要請する。 なぜこいつは先にアパートに着いているのだ? しかも涼しい顔して立っているだなんて。 それに確信した。やっぱりこの男は自分のストーカーだと。 「俺ん()知ってるんだな……」 「知ってるよ。ご主人様の事ならなーんでも」 「い、いつから俺の事を……ていうか、君は一体誰なんだよ?」 「だからマルだって言ってんじゃん、しつこいなぁ。あ、じゃあこれ見せたら信じてくれる?」 面倒くさそうに言った自称マルは、おもむろに被っていたニット帽を掴む。 少々ゴムがきついのか、「んー」と唸りつつも頭から引き抜くと、その下からふさふさでモサモサの犬の耳が二つピョコンと飛び出した。

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