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第12話
七緒は、今の彼氏とは体を繋げるどころか、キスさえもしていない。
上も下もバージンなのだ。
でも彼の肉棒に手を這わせた事はある。
こちらに安易に手を出してこないのは、七緒を一番大事で大切に思っているのだと勝手に解釈をしている節がある。
「どうしたのご主人様。何か顔赤くない?」
「う、ううん。別に」
「……いま何考えてたの?」
マルはじーっとこちらを見つめてくる。
姿形は違えど、マルとは何回もキスみたいな事は当たり前にした。
だから言わばこのマルが、自分のファーストキスを捧げた相手だという事なのか。
馬鹿らしい事を考えてる事がバレたかと焦ったが、先ほどマル自身が『人の考えている事を読み取れるのは一日一回まで』と言っていたのを思い出し、ホッと胸を撫でおろした。
「マルが意外と薄情な奴だったんだなって思ってたんだよ」
「いや、ご主人様が悪いよ。周りの目ばっか気にしてないで、自分がやりたいようにやればいいのにって思ってさ」
「それだったらやりたいようにやるよ!マルがなんと言おうと、彼氏とは絶対に別れない!」
「それはダメだ!わざわざ人間になってまでここにやって来たのに!ちゃんと別れないとずっと5のままだよ?」
「いいよそれでも!ちなみにその辛うじて残ってる5って数字はどっから来てるんだよ?」
「かふぇで店長と話してる時3。ストレス解消で菓子食ってる時2」
「キーッ」
それくらいでしか幸せを感じられてないなんて、自分は一体なんなんだ!
「全部あいつがご主人様の幸せをかっさらってってんだよ。はやく気付いてよ。本当は自分一人を見て欲しいって思ってる癖に」
マルに本音をズバリと当てられ、ますます頭を抱えた。
実は一度、彼にそんな事をやんわりと言った事がある。
すると相手は途端に不機嫌になって「嫌ならやめてもいいんだよ」と七緒をいとも簡単に手放そうとしたから、慌てて否定をして、それ以来この関係性について意見するのはやめたのだ。
「ご主人様は自分を求めてくれるって経験が今までに無かったから、そいつを運命の人だって勘違いしてるんだよ。はやく別れなよ」
いいのだ。
七緒と一緒にいる時の彼は、他の男の名前や話題は一切口に出さない。きっと彼なりのポリシーみたいなやつだろう。
それに、彼には感謝をしている。
親友がいなくて人との距離感が掴めない七緒の事を、周りの気持ちが分かる、繊細で優しい人なんだねと褒めてくれた。
バイトでミスをして落ち込んでも、決して七緒を責める事はせず、ひたすら頭を撫でて慰めてくれた。
彼がいてくれるからこそ、今の自分に自信が持てるんだ、そう自分に言い聞かせた。
それに。
「こんな俺を好きになってくれるような人なんて、彼以外にいないよ」
「いや、いるよ?一人」
キッパリと断言されたから、もしかしてマルはその不思議な力ですでに知っているのかと、興奮気味に前のめった。
「えっ!いるのか?誰?」
「俺」
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