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第13話
俺、とにこやかにマルは親指で自分を指す。
また俺俺詐欺か。
「マル、ありがと」
「あっ何その軽い感じ」
「えっ?いや、だって慰めてくれたんだろ」
「慰めじゃない。ちゃんと好き」
「え」
「ずっと好きだった」
マルは七緒の両手をぎゅっと握り、真剣な眼差しをこちらに向けて呟いた。
(えぇっ!俺、いま告白された!)
トクントクンと、胸がときめく。
目の前の美男子に手を握られ、熱い眼差しをこちらへ真っ直ぐに向けられるとものすごく照れてしまう。
でも高揚した気分はすぐに急降下していき、ゲンナリとする。
かつて飼っていた犬相手に、何がときめく、だ。
「ありがとうマル。俺もマルが好きだよ」
「……なんか違う」
マルは不貞腐れて唇を尖らせる。
「何が違うんだよ?」
「なんか軽い。俺、ずっとご主人様の事が好きだったのに」
「もちろん、俺だってマルがずっと好きだったよ。でも飼い犬と飼い主が相思相愛だっていうのは当然の事だろ?」
「俺はずっと、ご主人様をそういう目で見てたよ」
急に視界がぐらりと揺れる。
ドサッと床に倒されて、生成色の天井が見えたかと思ったらすぐにマルの顔が目の前にヌッと現れて、顔の横に手を付かれて見下ろされた。
状況を飲み込めていない七緒は戸惑った。
「えぇっ!?マル、何やってんの?」
「ご主人様の一番はずっと俺だったでしょ?俺の方がちゃんとずっと好きだったのに、何であんなクズ野郎と付き合ってるの?」
昼ドラか、と思う。
確かにマルが自分を好きだというのは当然納得がいく。愛犬が飼い主に忠誠心を示すのは当たり前だし、中でもシェルティーは他の犬種に比べてそれが強い傾向にある。
でもマルは確かに『そういう目で見てた』と言った。
マルは犬ながらも、飼い主の自分を本気で好きだったとでも言いたいのか。
こんな床ドンをやられた事が無い七緒は、激しく動揺してしまう。
「マルッ、ちょっと落ち着け!顔がなんか怖いし!」
「ご主人様が聞き分けなくてこんなにバカな奴だとは思わなかったよ。俺の事を好きになればいいじゃん。そしたらきっと幸せ指数取り戻せるよ」
マルは自ら腰をカクカクと前後に怪しく揺らし、七緒の体に擦り付ける。
マウンティング……。
……マルは去勢した筈だが?!
そのズボンの下はどうなっているのかと、マルの下半身に視線を滑らせた。人間になったから性欲までも取り戻した(?)のだろうか。
怖くて訊けそうに無い。
――もしかしてマルは既成事実を作ろうとしているのか。
彼氏と別れさせる為に。
スリスリと衣擦れする音と自分の血がサーッと引いていく音が同時に聞こえた七緒は、なんとか逃げなくてはとマルの胸を押した。
「マルッ!待てだ!」
「はっ。犬の姿じゃない俺にそんな事言ったって無駄だよ。今の俺に何言っても……」
「お、俺はお前の飼い主だ!お前の下 の世話までしてたんだぞっ!」
「……」
「お前の……尻の穴とかっ!何度も何度も見たんだからな!」
マルは「キャゥン」と言って破顔して飛び跳ね、またベッドの隅に潜り込んだ。
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