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第14話
ふぅ、何とか助かった。
七緒は起き上がり、また尻尾をしゅんと垂らすマルの横に座りその背中を撫でてやった。
「マルがそんなに俺を好きでいてくれたって分かって、すごく嬉しいよ?その幸せ指数とやらはもう気にしなくていいから。マルは安心して、元いた場所へお帰り?」
「……やだ」
布団の中から不貞腐れた声が聞こえる。
「やだって言っても……こっちだって彼氏と別れるなんて嫌だよ」
「ていうか帰れない」
「……はい?」
「ご主人様の幸せ指数上げないと、帰れない事になってる」
聞き間違いかと思い、七緒は布団を剥がしてマルの顔を覗き込んだ。
マルは枕に顔を半分埋めながらくっくっと笑っている。
「何で」
「そういう約束」
「……い、犬の神様と?」
「うん。ご主人様が心から幸せだってちゃんと思えるまで、俺、頑張るからね」
マーキングするかのように枕に顔を擦り付けるマルを見て、七緒は目を白黒させた。
もしかしたらこの犬……男は、自分の家に居座る気じゃないだろうか。
ぼんやりとしていると「今日から宜しくね」とマルに抱き締められてようやく我に返った七緒は、予感が的中した事に本日二回目のゲンナリを味わった。
そしてマルが犬神様と交わした約束事を、事細かに説明された。
飼い主以外の人間に、耳や尻尾を見せたり触れさせたりしてはならない、むやみに色んな人間と接触しない。
生き物には優しくする。
飼い主への敬いの気持ちを忘れずに、傍に寄り添い、癒してあげる。
マルは話終えると、急に全ての服を剥ぎ取ってしまった。
やはりその身体の中心には、ごく普通の人間の七緒と同じようにプラプラと揺れるモノがついていた。
風呂に一人で入りたいと言ったマルにお湯の出し方を教えたら、マルは嬉しそうにバスルームの扉を閉めてシャワーを浴びていた。
折角人間の姿になったのだから、犬の姿の時に憧れていた事を全部やってみたいのだそうだ。
七緒はまたベッドに腰掛け頭を抱える。
自分が彼氏と別れない限り、あの男はこの家に住み続ける予定なのだろう。
もし彼にその事がバレたら、それこそ幸せ指数なんて0になってしまう気がするが。
長いため息を吐く。
明日からの生活を思い、本日三回目のゲンナリを味わった。
風呂から出てきたマルは、前のイチモツを隠す事もしないまま七緒の隣に座り、パタパタと尻尾を振る。
水滴が思い切り顔についたが、文句を言う気力も無いまま、七緒はしばらく遠い目をしていた。
しかしこの奇妙な耳と尻尾が生えたマルとの生活はたったの二週間で終わりを迎える事になろうとは、この時はまだ知る由もなかった。
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