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第16話
講義を受けながら、七緒は彼氏にメールを入れる。
[何時ころから会えるかなー?会えるの久々過ぎて、今から楽しみで夜も眠れないよ。俺はどこでもいいよ。そっちは行きたい所はある?]
こんな乙女チックな文章、誰にも見せられないけど、こんな広い講堂であれば誰も自分の事なんて見ていない。次に打つ文章を考えているうちに、あちらからすぐに返信が来た。
[その日は夕方からだったら。車出すよ]
仕事中なのに、直ぐに返してくれた!
七緒は感激してスマホの上で素早く指を滑らせる。
背後に誰が座っているのかも気付かずに。
「おっけー夕方ね。そのままドライブしてもいいよね。その後はいつもみたいに家にお邪魔してもいいかな?それか何処か美味しそうな店を探しておこうか。何か食べたい物はある?俺は……」
文字を入力するのに夢中になっていたが、耳元で誰かに読み上げられていた事にようやく気づき、後ろを振り向く。そこには頬杖をついて画面を覗き込んでいるマルがいた。
「マッ……!!」
周りの視線が一気に集まり、マイクを使って話していた教授までもがこちらをじっと見てきたから、慌てて前に座る生徒の影に隠れた。教授がまた喋り出したところで、小声でマルに話しかける。
「な、何で来てるんだよ」
「買い物行こうとしたんだけど、お金が無いって事すっかり忘れてて。ご主人様にお金貰いに来た」
マルの隣に座る生徒に聞こえたらしく、じとっとした冷たい目でこちらを見てくる。
怪しい関係だと思われたのは間違いない。
ちょっと静かにして、とマルに言い、七緒はひたすら授業が終わるのを待った。
チャイムが鳴り、すべての生徒が出ていったところでマルを捲し立てる。
「変な行動するなって言っただろ!」
「変な行動じゃないじゃん。お金が無いからご主人様に貰いに来ただけで」
「そんなの俺が家に帰ってからでもいいだろ」
「でもご主人様、今日もかふぇに行くんでしょ?それから買いにいったんじゃ俺眠くなっちゃう」
「ていうかそのご主人様って言うのも外では辞めろ!変な目で見られるから」
「えー、じゃあなんて言えばいいの?」
「七緒とか、七緒くんとか、何でもいいから」
彼氏のところへは行っていないらしいけど、まさか大学に来るだなんて予想外だった。今日は四限までみっちり授業が入っている事と、終わったらバイト先へそのまま行く事を伝えた。
「だからマルに付き合ってる暇は無いんだよ。お願いだから、家でおとなしく待っててよ」
「なーんだ。つまんないの」
マルは納得したのか、スタスタと教室の外へ行ってしまった。
俺たちの関係はなんなんだろうか、と思う。
マルは幸せ指数を取り戻させる為に七緒のそばにいると言うけど、マルがそばにいる方が気を遣ってどんどん減って行くような気もするのだが。
ため息を吐いた七緒は、とぼとぼと教室を出た。
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