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第18話

「いい?勝手に大学へは来ない!カフェへもいかない!約束できる?」 瞬きを繰り返しながら部屋で説教をする七緒に、マルは形ばかりの真剣な表情を作りウンウンと頷いてはみるが、目の前のテーブルからはみ出す勢いの大量のスナック菓子やチョコレート菓子に意識が完全に向いていた。 「犬の神様と約束したんだろ?むやみにいろんな人間と接触しないって。全然守れてないじゃないか!」 「家にいても暇だから散歩してたんだよ。ご主人様のかふぇを通り過ぎる時にたまたま外にいた店長が声掛けてきてくれて。七緒くんの友達だって言ったら店の中に入れてくれて、つい」 「断れよ!そこは!」 ポテトチップスの袋に手を突っ込んで中身を口に運ぶ。 こうやって馬鹿食いするのが七緒のストレス解消方法だ。 マルは主人が事ある毎にこうやって馬鹿食いするのを昔から見てきたから、特に驚く様子は無い。犬の時は食べれなかったようなものが人間の姿である今なら思う存分食べられる。 感激に胸を震わせながらチョコを口に運ぶマルを見て、七緒はさっきより余計にイラついた。 「聞いてる?あと一つ大事な事!絶対に彼氏のところへは行くなよ?」 「何で?」 「変な事吹き込んで、別れさせるつもりだろ?そんな事したらマルの事一生恨むからな!」 「そんな事はしないよ。そうやって別れさせたとしても、ご主人様は余計に気持ちを引きずるだけだから。ご主人様が自分から別れたいって思わせるようにしなくちゃ」 七緒は袋をひっつかんで口を大きく開け、中身を直接流し込む。 ボリボリと噛みながらもう一つのポテチの袋を開け、飲み込んですぐに新たな袋の中に手を突っ込んだ。さっきのは塩味で、今度はコンソメ味だ。 「自分から別れたいだなんて、そんな事思うわけ無いだろ。俺は何があってもずっと彼と付き合っていく」 「ふぅん、どうかな。ところでご主人様、そいつと今度のデートはどこへ行くのか決めたの?」 一瞬の間を挟んで、スマホを取り出す。 実はまだ何も決まっていない。 何故かというと、相手からの返信が無いからだ。 きっとこちらからもう一度連絡しなければならないだろう。このパターンは何度か経験しているから分かる。 初めこそは二人の温度差を疑問に思ったりしたけれど、なんせ相手は暇な自分とは違う。 学生で時間に余裕のある自分が気を利かせればいいだけの話なのだ。 責任ある仕事をする彼の重荷にはなりたくない。 飴玉を歯でボリボリと噛み砕くマルは、あきれたように言った。 「そうやって都合よく解釈しない方がいいと思うけどね」 「あっ、マル、また勝手に人の心の中覗いて」 「本当に好きな人なんだったら、そんなに気を遣う事無いんじゃないの?今のご主人様見てるとなんか疲れる。嫌われたくないってオーラがすごいもん」 「え……」 俺、そんな風に見えてたのか? しかし、誰だって好きな人から嫌われたくないって思うに決まってる。だから相手に合わせるんじゃないのか。恋愛に限らず、人と人とが関わるってそういうものなんじゃないのか。 今まできちんとした恋愛をしてこなかった七緒には、どうするのが正解なのか全くわからなかった。

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