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第25話

彼が二階から降りてくるのを見計らって、冷蔵庫の中から箱を取り出し、先ほど店長に貰った二種類のケーキを一つずつ小さな箱に詰め替えた。 彼氏の大きな背中にトコトコと着いて行く。 「まだまだ雨止みそうにないね。七緒くん、帰り気を付けてね」 「うん、ありがとう。あの、良かったらコレ食べて?中にケーキが入ってるから」 「お、ありがとう。家に帰ったらすぐに食べるよ」 またね、と笑顔で手を振る七緒に、彼は軽く会釈をして門を出た。 藍色の大きめの傘が彼の身体をすっぽりと包み込む。 七緒はいつまでもその背中に向かって手を振っていた。 「七緒くん、あの常連さんとたまに話してるよね。仲良しなんだね」 「あ、はい。いつもとりとめのない話してるんですけどね」 ケーキをあげてもいいですか?と店長に確認をとった時も、なんとなく二人の関係に気付いたような笑みを浮かべられたから、もしかしたら疑われているのかもしれない。 七緒も店長も、お互いに深くは訊かない。 七緒は付かず離れずの程よい関係性の店長が好きだ。 もう一度二階に上がり、先程彼がいた窓際のテーブルを拭きながら、ガラス窓に点々と付着している雨粒を見る。ここからは遠くまでよく見渡せる。 ――見たいものや、見たくないものまで。 視界に映りこんだ光景が信じられず、頭が真っ白になった。 近くのコンビニの前に藍色の傘をさす彼を見つけ、また穏やかな気持ちになったのも束の間、彼は外に設置されているダストボックスに近づき、手に持っていた箱をその中にいれたのだ。 その白い箱は、先程自分が確かに手渡した、ケーキの入った白い箱。 なんで…… 彼は、甘いものは苦手じゃないのに。 もしかして迷惑だった? あ、そうか。お腹が一杯で、食べる気になれなかったのかも。 でも、捨てるの?自分が作ったんじゃないけど、彼が喜ぶと思って渡したのに。 七緒は一気に落ち込んで、視線を床に落とす。 もう一度外を見てみたけど、彼の姿はすでに見当たらなかった。 「どうしたの?具合悪い?」 先程の明るさから一転、青い顔をして二階から降りてきた七緒に店長は声を掛ける。 七緒はできるだけニコリと笑って返した。 「あ……なんだろ、ちょっと貧血っぽくて」 「大丈夫?片付けは僕がやるから、七緒くんは早く帰って休んで?傘は店の使っていいから」 「すみません、じゃあお言葉に甘えて」

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