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第26話
白い箱を濡らさないように胸の中に抱えながら傘をさし、コンビニへ向かった。
傷つくかもしれないと分かっているのに、確認せずにはいられない。
コンビニにたどり着き、ダストボックスの蓋を開けると、ビニール袋や潰されたジュースの紙パックなどに紛れて、くしゃりと折れ曲がった白い紙の箱があるのを見つけてしまった。
思わずそこから駆け出す。
見間違いだと思いたかったのに、この目で見てしまったことで現実を突きつけられる。
信じられない。信じられない。
例え迷惑だったとしても、こんな風に平気で捨てて帰るなんて。
彼は本当に優しい人なのか、疑念を抱かずにはいられなかった。
アパートの玄関を開ける際に、自分の頬をパンパンと手で叩き、気合いを入れる。
落ち込んでいたらきっとまたマルにからかわれる。
七緒は無理矢理口角を引き上げて、ドアを開けた。
「ただいま」
返事は無く、中は電気が消えていてシンとしていた。
びしょ濡れの靴下を脱ぎ、電気をつける。
「あれ、マル?出かけてんのか」
いつもはとっくにベッドに潜り込んでいる時間なのに、そこにマルはいなかった。
姿がない理由をあまり深く考えずに、風呂でシャワーを浴び、着替えをしてベッドに寝転がってスマホを手に取った。
先程から、文字を打っては消してを繰り返している。
――さっきのケーキ、どうかな?
――店長が作ったケーキ、美味しいかな?
――ごめん、俺、見ちゃったんだよね。ゴミ箱にケーキ捨ててるところ。
かまをかけたり、正直に告白したりと、いろんな文字を打ってはいたが、結局どれもが彼氏に送信される事は無かった。
そんな事をしているうちに、時計の二本の針が真上を向いていた事に気づく。
そろそろ寝ようか、と部屋の照明を落とそうとした時だった。
……マルは?
ハッとして、ベッドに座り直す。
昨日はリュウくんのところにいたらしいけど、今日は?
今日は違う犬仲間のところにいるのか?それとも……
もしかして、空に帰った?
昼間、マルに会った時に心の中で呟いた一言を思い出して青ざめた。
「早くお空に帰りやがれ」という心の声を、もし聴いていたとしたら。
繊細なあいつがそれを真に受けて、本当に帰っていたとしたら。
七緒はいてもたっても居られず、部屋を飛び出した。
ますます強雨になっている中、傘もささずに街中を駆け回った。
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