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第33話

「お前に何が分かるんだよ。他人事だと思ってあーだーこーだ簡単に言いやがって」 「ご主人様だって嘘ばっかり吐いてるよ。言い訳してないで、自分の気持ちに正直になればいいのに」 「人間はそんな単純なもんじゃ無いんだよ」 「単純だよ」 「……お前とは違うんだよっ!」 急な大きな声に、マルの身体がビクリと強ばった。 そして七緒は興奮したまま、つい口にしてしまう。 「犬だか人間だか分からないような奴に言われたくないよ!言葉を使ってコミュニケーション取るのなんて俺としかまともにしてないくせに!」 言ってはいけない言葉だったと、マルの驚きの表情を見て七緒はようやく我に返る。 マルは身じろぎひとつしない。 じっと見つめられている事に耐えきれず、七緒は目を閉じて首を横に振った。 「……ごめん。マルは何も悪くないのに。傷付けるつもりは無かった。今の言葉は忘れて。本当にごめん」 ご主人様以外の人間とは関わらない約束だろ、と口酸っぱく言っていたのは自分のくせに。 この数日は体調を崩していた事もあって、マルはその言いつけを忠実に守り、自分の傍を離れずに看病してくれた。 マルには感謝しているのに、どうしてマルを傷付ける事しか出来ないのだろう。 七緒はおもむろに立ち上がり、スマホだけを持って玄関へ向かう。 スニーカーに足を入れながら、独り言のように呟いた。 「ちょっと頭冷やしてくる。マルは先に寝てて。歯磨き、ちゃんとするんだぞ」 返事は無かったけど、そのまま家を出た。 空はどんよりと暗く厚い雲に覆われていて、まるで今の自分の心の中だなと自嘲した。 上手くいかないのは自分のせいなのに、マルのせいにしてしまった。 そんな自分が滑稽で恥ずかしい。 人間になって20年も経つのに、たった14日しか人間をやってないマルの方が自分より何倍も大人だ。 七緒はあてもなくフラフラと夜道を歩いた。 ポケットからスマホを取り出し、彼氏の連絡先を探す。 このまま電話して、本音を伝えてみてもいいんだろうか。 嫌われたりするのは正直怖い。 けれどこのままじゃ、俺の気持ちがいつまでも曇りのままだ。 勇気を出して、伝えてみよう。 そう決意した時、七緒は背後に気配を感じた。 ずり、とアスファルトと靴底が擦れる音が聞こえる。 マルがついてきたのかもしれない。 そんな思いで振り向くと、そこには見知らぬ男性が立っていた。 見た感じ40代くらいの小太りの男性が、七緒に向かって怪しく微笑みかけていた。

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