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第21話

彼の部屋を出て、一人とぼとぼと帰路につく。 いつもこの瞬間は、少しだけ寂しい。 でもいいんだ。喜ぶ彼の顔を見ると、本当に嬉しくなるから。 さっきまでじんじんと痛いくらいに腫れていた股間も、すっかり元気をなくしてくれている。ホッとして家の玄関を開け、部屋の中に入った。 「お帰りー」 「ん、ただいま」 マルはいつものように、すでにベッドの中に入っていた。 少し浮かない顔をする七緒に、マルは不思議そうな顔を向ける。 「デート、楽しくなかったの?」 「えっ、いや、そんな事無いよ」 リュックを置いて部屋着に着替えていたら、ベッドを抜け出したマルに身体の匂いを嗅がれた。 「なんか雄のにおいがする」 「……」 「交尾してきたの?」 その言葉に思わず吹き出す。 マルに手を取られ、掌の上でスンスンと鼻を鳴らされたから激しく狼狽してしまう。 「な、何するんだよ」 「あ、でもご主人様のにおいは弱い」 「離してっ」 「……ふーん」 訝しげに微笑まれた七緒は、思考を読まれてしまった事を悟った。 この厄介な力をマルから無くす方法はないものか。そう考えた事でさえもマルに聴かれてしまう。 「無くす方法なんて無いよ、出来ちゃうんだから。犬神様だったら知ってるのかもしれないけど」 「もうっ!だったらその犬の神様とやらに会わせろ!そいつに直接訊いてやる!」 「人間の前には姿を現さないよ。動物にだけ見える」 「なんだそりゃ!」 無性に何かを投げつけたい衝動に駆られた七緒は、目に入ったクッションをベッドに投げた。破壊的な音が鳴り響いたりすればスカッとするかもしれなかったのに、パスン、と空気が少しだけ抜けるような間抜けな音を聞くと余計にイラッとして、項垂れた。

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