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第47話 番外編 マルのしあわせ
やっほー。
俺はシェットランド・シープドックっていう犬種の男の子だ。二ヶ月前に産まれたばっかり。
体重四キロ、毛色はセーブル。
名前はまだ無い。
なんだかよく分からないうちに母親と引き離されて、小さな箱部屋に入れられていた。
でもここにはちゃんとトイレはついているし、餌も水もある。
どうやら人間、という生き物が俺の世話をしてくれているみたいだ。
両隣の部屋にも、犬がいる。
ポメラニアンやトイプードル、ミニチュアダックスフンドなど、様々な種類の犬がいて、もう何個か先の部屋には猫もいる。
みんな仲良しだから全員大きな部屋で一緒に走って遊びたいのに、それはダメらしい。
それぞれ与えられた箱の部屋で、外の景色をじっと見るのが日課だ。
お世話係の人間は、たまに遊んでくれるから好きだ。
でも夜になると、その人間はどこかに行ってしまう。
部屋も暗くなるから少し怖い。
だから人間がいなくなるって分かると、俺は目いっぱいの抗議をする。
『帰らないでっ、そばにいてっ』って言ってるのに、どうやら俺の言葉は人間には伝わってないらしく、ただやかましく吠えてるだけにしか聞こえないみたい。
俺は人間の言葉を理解できるのになぁ、どうしてだろう?
寝て起きて、決まった時間になると、部屋の中がパッと明るくなる。
そしてお世話をしてくれている人間とは別の人間がやってきて、俺を見て手を振ったり笑ったりしてくれる。
えっ、遊んでくれるの?
その胸に飛び込んで抱っこしてもらおうとしても、ガラスの板に囲まれているから出来ない。
前足を使ってカリカリとガラスを擦ると、人間は大抵「可愛い〜」と言って喜んでくれる。
水をンクンクと飲めば「可愛い〜」
ちょっと寝転んで後ろ足で痒いところをかけば「可愛い〜」
……ふふ、人間って、チョロいな。
気分が良い日は、大サービス。
甘ったるい声で鳴いてみたり、目を潤ませたりしてやると、大抵人間は喜んでくれる。
特に女のコとか、小さな人間がね。
でもそんな事をしても、そこから出ておいで、遊んであげるからって言ってくれる人間はいなかった。
このガラスの箱が無ければいいのにな。
俺はもしかして、見ている人間をこうやって喜ばせる為にここにいるのかな?
不思議に思っていたある日、隣の部屋のトイプーちゃんが箱の外に出て、知らない人間に抱っこされてどこかに行ったのを見た。
二日後、代わりに見知らぬ犬がその部屋にやって来た。
あぁ〜、トイプーちゃんいい子で好きだったのに、もう会えないのかなぁ、残念。
でもそれを見て俺はピンと来たんだ。
きっと、俺たちを見ている人間が気に入る犬や猫を連れて行ってもいいシステムになってるんだ。
そう気付いた日から、俺はますますやる気を出した。
人間がこちらに近づいてきそうな気配があれば誰よりもはやく演技をして存在をアピール。
まず俺を一番に可愛いって思ってもらうんだ!
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