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第2話 -6

 部屋に戻り、着替えてきますと一度帰って行った市倉を見送り荷物をまとめる。財布と携帯さえあればいいが、機嫌とりのために時計は持ち歩いておかなければ。  適当にクラッチバッグに放り込み、昨日市倉が買ってきた参考書を適当に眺める。趣味もなく勉強ばかりしていたから正直必要もないが、父へのカモフラージュのためにも使っているふりだけはしておくべきか。  成績なんて気にされない。通知表だって確認されたことすらない。卒業できれば留年をしても構わない、父はそんなことを言っていた。母は……自分が何処の高校に行っているのかもわかっていないから、父以前の問題だ。  走って着替えてきたようで、市倉はすぐに戻ってきた。スーツではなく、悟志の服装に合わせたシックな出で立ち。服装が変わるだけでも年相応に見える。障子は開けても一切中に入ってこようとしない市倉にクラッチバッグを持たせ、廊下に出ると人の気配がした。 「お前以外こっちには誰も入るなって言ってあるよな」 「朝も早いし、きっと掃除でしょう。朝食はどうしますか」 「外で食う。適当にコンビニでいい」  何処で食べてもどうせ一人だ。コンビニで買えば毒見なんて前時代的なことをさせなくてもいい。  誰がいるか自分では確認しないが、玄関に向かいながら市倉が通りすがりの若い衆に確認に行かせる。玄関には既に車が準備され、悟志はそれに乗り込んだ。 「新入りが掃除しに立ち入っただけらしいです。特に問題はありませんでした」 「ならいいか。今日の昼はクスクスが食べたい」 「……店を探して予約を入れておきます」  運転席に乗り込んだ市倉は若い衆に告げられたままに報告する。自分の部屋に立ち入られなければなんでもよかった悟志はすぐに思考を逸らし、態と珍しい料理の名を挙げ座席に横になった。 「行儀が悪いと怒られますよ」 「どうせお前以外見てないし、告げ口だってしないだろ」 「しても怒られるのは俺だけですからね。嗚呼、そうだ。再来週は定期考査でしょう。勉強の方は大丈夫ですか?」 「別に。あれくらいまだ小学生でもわかる範囲だろ」 「慢心はいけませんよ、ちゃんと勉強してくださいね」 「小言がうるさい、小姑」  当たり前のことをこうして口に出してくれる相手が貴重だとわかっていて、言われたことに悪態を吐く。  悟志のそれが本気ではないとわかっていて、市倉は少し遠いコンビニまで車を走らせながら笑っていた。

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