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第5話 -1

 悟志が風邪で休むなんて、今まで一度もないことだった。光はその原因は時雨なんじゃないか。あの世話係は何をしているんだと悶々と午前中の授業を受ける。  昼休みになり、時雨を問い詰めに行こうかと立ち上がった光に、すぐ隣から声を掛けられた。 「光、今日も何処か行くの?」 「う、ううん。ちょっと別のクラスの友達とお話したいなって!」  自分が今狙っていると悟志に思わせている相手。それに話しかけられ、光は慌てて笑顔を作った。危ない、時雨に詰め寄ることばかりを考えて表情が素のままだった。  栂野優(とがのゆう)。高身長で顔立ちも整い、物腰も柔らかい好青年。自分の隣にいて、悟志が一番嫉妬するであろうタイプの人選だ。我ながら絶妙なチョイスをできたと思っている。勿論、そう見せるためにしているのは悟志が見ている間だけ。優とは絶妙な距離感で、単なる友人だと思っているから本人には気付かれていない。  光の言葉に、優はそうかと声を漏らす。 「光、地元もここら辺だって行ってたし他のクラスにも友達はいるよね。最近無理に誘ってたかな、ごめん」 「ううん、俺友達と一緒にご飯食べるの好きだから無理とか思ってないよ! すぐ戻るから、今日も一緒に食べよ!」  大きく手を振り、時雨達のクラスへ。時雨は丁度購買に行くために教室を出たところだった。  その肩を掴み、周りからは可愛らしく内緒の話をしているように笑顔のまま耳元で囁く。 「お前、さとに何か仕込んだ?」 「ちょっとあっち行こうか」  大っぴらには話せない話題。誰にも聞かれないよう、ついてこないように警戒しつつ人気のない階段裏へと移動する。  光はそこに座り込み、時折通り過ぎる生徒からは見えないように時雨の横腹を強く抓った。 「いてててて」 「仕込んだかどうか聞いてんだけど」 「何もしてないよ。俺健康体だし、ヤってる時だって脱がせてないし」 「……ふうん」 「信じてないだろ。いつも通りのものしか使ってないよ」 「舐めさせてたろ。感染でもしたんじゃないのこのヤリチン」  悟志には気付かれていないが、トイレの個室で昂りを舐めさせていた時に二人の顔が映るように写真を撮り光に送りつけていた。それが光が時雨が悟志を抱いたと知っていた理由。  より一層強く抓られ、時雨は思わず息を止めた。 「……病気とかないし、もう一人に絞るから」 「何回でも言うけど渡さないから。お前のせいじゃないならもういいや、教室戻ろ」  時雨のせいじゃないのならこれ以上話をするのは時間の無駄。光は教室に戻りながら悟志に連絡をとる。 『お見舞い行ってもいい?』  どうせ断られるのはわかっている。あの家の敷地にはもう10年は入っていない。  それでも、これまで学校を休むレベルで体調を崩すなんてそうそうなかった。そんなに弱っているのなら、隣で見守っていたい。心配と、ほんの少しの下心だ。

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