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第5話 -2
聞いた結果は、やはり断られてしまった。嫌なことはすぐに返信してくるくせに少し時間がかかったそれに、葛藤したのか、それとも辿々しく返事を打っていたのか気になる。後者なら、想像するだけで可愛くて興奮してしまう。
悟志が携帯を持ち始めたのは自分がねだったからだ。外で気軽に話しかけてはいけないのならせめて誰にも見れないところで連絡がとりたいと。後日父親に金をもらったのか買ってきたというそれに、嫌がられるのをわかっていてSNSアプリを落とし勝手に操作し自分だけを友達として登録した。もうあれから4年経つが、相変わらず文字の入力は苦手なようで短い文でしか送ってこない。小学校の時手紙を書いて相手に渡すなんて宿題があった時はどうでもいい世間話まで長々と書いてきたから、文章を書くことは苦手じゃないはず。なのに短くなってしまうそれがまた、可愛い。
光は、送られてきた2文字にもう一度視線を落とす。
『だめ』
いつもなら、駄目だか嫌だのどちらかなのにひらがな2文字だけの返信。もう可愛くて可愛くて仕方ない。
教室に戻り、いつものように鞄からお重を取り出し机をくっつけ待っていた優の向かいに座る。携帯を見るたびにニヤニヤと笑ってしまう光に、優はつられるように笑いながら声をかけた。
「何かあった?」
「可愛いにゃんこって癒されるなーって。もうほんと可愛い」
「猫動画?」
「まあ似たようなものかな。あ、優には内緒! 俺だけの秘密だからね!」
「そっか、残念。あ、そうそう。明日は俺撮影で1日いないからプリントとかお願いしてもいい?」
「おっけー、任せといて」
優は俳優として芸能活動をしている。来られない時はお互い様だ。
それに快く返事をし、悟志にごねるように行きたいと連絡を再度入れ、返信を待った。
『うつる』
家の中に入れたくないと直接言われたことはない。その言葉を避けながら、角が立たない言葉を探したのだろう。その3文字を打つ悟志の様子を考え、可愛さに思わず顔を覆った。
やばい、勃った。膝の上には目を離した隙に悪戯されないように鞄を置いているから周りには気付かれないだろうが、布地が引っ張られおかしく見えてしまうかもしれない。芸能コースの教室でも関係なく視線は絶えず注がれる。
悟志と実際に会わない限り、想像だけでそれが反応してしまうなんてこと今まではあまりなかった。朝勃ちは別として、手遊びのために妄想する時くらいだ。
それが、昨日の夕方辺りから我慢できなくなってしまった。実際に見たことはなかった悟志の快感に歪む顔を見せられてしまってから。興奮状態が一定以上に達するだけで勃起してしまう。
時雨の奴、やっぱり許さない。この興奮を上手く沈めるためにファン向けに運営しているSNSで弁当箱の一角の写真を撮り更新しながら、あの馬鹿の顔を思い浮かべ殺意に変換し身体を落ち着かせた。
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