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第17話 -1
悟志が父に誘拐されかけたという話を時雨に教えられたのは、写真集の撮影のためにトルコに行き帰ってきた月曜日の朝。悟志のクラスに行ったものの姿が見えないことに疑問を感じ、言葉を濁す時雨を屋上前の扉まで呼び出して聞いた結果そんなことを言われてしまった。
しかも、強姦されていたなんて話も聞いてしまい、怒りを通り越して卒倒しそうになってしまう。何日間もそれを知らなかった事実にも頭痛までしてきた。
「なんで教えてくれなかったんだよ」
「仕事で国外に行く予定の奴に心労かけるようなこと言えるかよ」
「でもさとのことなら教えてほしかった。今さと何処にいんの?」
「連絡とれないからわからない。けど、兄貴からの話じゃ抗争始まるかもしれないって感じだし、市倉さんとかに保護されてるんじゃないかって」
あの男も正直あまり信用はしていないが、悟志のことに関しては過保護だからきっと大丈夫。
それでも、そんな状態の悟志にこちらから連絡することもせずにいたなんて。光はその場でスマートフォンを取り出し悟志に連絡を入れる。
元からすぐに連絡が返って来ることはない。そのまま画面から視線を外し、時雨に向き直った。
「それで、なんでそれお前が知ってんの」
「放課後、ちょっと遊びに行くことになって。市倉さんがいるから大丈夫だろうと思ったんだけど」
「……お前の兄貴、九条組だって言ってたじゃん。お前から漏れたんじゃないの」
身近に悟志の父に通じるような人間がいながら悟志を無防備に外に連れ出すなんて、何をしているんだ。あの家から出て幸せになるために一歩踏み出した悟志を絶望の底に突き落とすような真似許せない。
声を荒げてしまえば誰かに聞こえてしまうかもしれない。光は時雨をきつく睨みつけた。
「九条を連れて遊びに行くのも、何処に行くかも誰にも言ってなかった。連れ出した俺が悪いってわかってるけど、まさか何も言ってなかったのにあんなことがあるなんて思わないだろ」
「学校から尾けられる可能性だってあるじゃん。……もういいや。過ぎたこといつまでも言っててもどうしようもないし。今日俺連絡とって会いに行くから、お前は暫くさとに近付かないで」
「言われなくてもそうするよ」
時雨も時雨なりに負い目を感じているようで、いつもの快活さからは程遠い低い声。光は時雨をその場に残し自分の教室に戻る。
「光、おはよう。顔色悪いけどどうかした?」
「ううん、何でもないよ。おはよー」
今日は珍しく朝からいた優がにこやかに挨拶をしてくる。今は能天気そうな笑みすら少し苛立つが、優には関係のないこと。それに他のクラスメイトがいる前では猫を被っていないと外部の人間に何を言われるか。
愛想笑いで挨拶を返し、光は自分の席に座り悟志からの返信を待った。
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