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第19話 -8
特筆するほど珍しい作りでもない普通の洋室。中を見せながら運び込んだ荷物の中から金庫を取り出すと、悟志の財布に適当な枚数の札を詰め込んだ。
これだけでも結構な大金だ。甘やかされなんでも与えられてきたのは金銭面でも例外はなく、毎月毎月途方もない金額を与えられ続けていたからそれが普通の高校生が本来持つはずのない金額だと悟志はよくわかっていない。
無理に抱かれ、満足させればさせるだけ小遣いの金額は上がった。行為に対する報酬のようなもの。別に悟志は望んでいなかったというのに。
市倉は悟志に少し待っていてくれと言い残し、澤谷を呼びに出た。澤谷は丁度最後の大荷物だと解体したベッドを持ってきており、市倉と共同生活をする部屋で組み立てをしている真っ最中だった。
「あいつらは帰したか」
「はい」
「ならいい。お前の荷物は」
「部屋住みで元からほぼないんであいつらに渡してきました」
つまり、こいつのものも買わなければいけないのか。
なら置いていく予定だったが連れて行くか。もう出るから作業は中断しろと告げ、悟志を迎えに戻る。悟志は何の躊躇いもなく腕を伸ばし、市倉に抱き上げられるのが当然という顔をしていた。
軽々と抱き上げ、既に作業をやめて部屋の外で待機していた澤谷を連れて玄関へ向かう。買いに行くのは少し離れた場所にある家具屋だ。靴を履かせてからポーチに置いていた車椅子に乗せ、地下駐車場へと向かった。
「お前達の部屋見てない」
「別に何も変わりませんよ。ちょっとだけ広いだけです」
「……見てない」
「はいはい、帰ったらな。澤谷、お前トラック乗ってついてこい」
「うす」
「……なお、隣は駄目か?」
「買ったもの持って帰るためには運転してかなきゃいけないでしょうが。それに、あんたがそうやってちょっかいかけるから駄目です」
新しい玩具に目を輝かせているお子様なのはもう十分に理解している。物心つく前から一緒にいるのだから、悟志の性格については本人よりもわかっていた。
地下に着くと澤谷はすぐにトラックへと駆けていく。市倉が初めに注意した通り中に盗聴器や発信器を取り付けられていないかの確認をするためだ。
幾ら信用した若衆に手伝いを頼んだとはいえ、裏切らないと決まったわけではない。馬鹿正直に悟志へ恋愛感情を抱いたことを告白した馬鹿くらいしか、心の底からの信用はできなかった。
いつも通り後部座席に悟志を座らせ、車椅子はトランクへ。運転席に乗り込み、澤谷がトラックを動かし始めたのを見て自分も操縦を始めた。
「なあ」
「なんですか」
「……あれ、終わったら撫で回していいか」
「年上の男を犬扱いするのはやめてあげてください」
犬にしか見えないのは自分もよくわかるが、悟志が触るのは駄目だ。
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