254 / 294
第19話 -10
地回りで日銭を稼いでいた澤谷は金銭的に余裕がない。
悟志が学校に行っている間に今まで通り稼いできてもらうことにして、今は市倉が代わりに必需品などは買い揃えることにした。
「兄貴、すんません……」
「坊ちゃんに出させるわけにもいかねえだろ」
リビングのソファなども含めて家具自体は選び終わり、布団も適当に選ばせた。悟志は何やら文句があるようだったが、気付かない振りをして自室の分だけの金を出させる。
服も買いに行かねばいけない。その他にも色々。悟志が欲しがっていたドライヤーもだ。
澤谷が買ったものを店員達と共にトラックに詰め込む間、同じ建物内にあったカフェで悟志にはソフトクリームを買い与えた。空腹だったらしく、悟志は何も言わず食べ始める。
こういうところはただの子供なのに。市倉は無言で食べている様子を近くの椅子に座り眺めた。
「食べたいのか?」
「いいえ、甘いの苦手なんでお一人でどうぞ」
「コーンやる」
「いらないっての。昔っからそうだけどコーンだけ残すのやめてください」
小さい頃からアイス部分だけ食べてコーンはいつも押し付けられてきた。あの頃は帰り道に買い与えてやっていたから、帰宅するまでに食べきれなかったら困ると残されても文句の一つも言わなかったが今はそんなことはない。
自分のこれは善意だと思っていたのだろう、少しばかり不貞腐れた様子の悟志は何も言わずコーンも食べ始めた。
澤谷が戻ってきた。その頃には元来少食なためか満腹になってしまっていたようで、悟志は何も言わず澤谷にコーンを渡す素振りを見せる。
間接キスなんて今まで一度も気にしたことなんてなかった。それなのに何故だか無性に気に食わない。市倉はその手からひょいと食べ残しを取り上げ、一口で頬張った。
「おい」
「急に腹減ったんで。行きましょうか」
「……わかった」
「兄貴、割とガキっぽいっすよね」
市倉が考えていたことが手にとるようにわかっているのか、澤谷は呟くようにそんなことを言い出す。
何か文句でもあるのか。そう視線を投げれば、あからさまなほど勢いよく顔を逸らされ距離をとられた。
ともだちにシェアしよう!