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第19話 -12

 つい今し方ソファに座らせた悟志がいない。澤谷は慌ててトイレや風呂場を見に行ってしまった。  市倉はどうせ此処だと自室の扉を開け、ベッドの上に視線を向ける。やはりか、悟志は布団に包まり眠ってしまっていた。  流石にまた起こすのは忍びないが、言うことを聞かなかったことは、少し腹立たしくも思ってしまう。部屋にも入れないと言ったのに。  戻ってきた澤谷に部屋にいたと告げ、2人で家具を組み立てることにする。買ってきたものは全て持ってきているため、澤谷には先にトラックを戻してきてもらうことにした。  段ボールの封を開ける前に着替えようと自室に戻り、悟志を起こさないように離れた場所でスーツを脱ぐ。  片付けは苦手だ。悟志の目があるからしていたが、これからは部屋に立ち入らせないために自室では気にすることもない。脱いだスーツは床に置いたまま、寝ておいてくれと思いながら部屋を出た。  まずは悟志の部屋に置く家具を。勉強机は組み立て式ではなく完成した状態のためそのまま運ぶのは難しい。本棚からにするか、そう決めると梱包してある箱を悟志の部屋へと運び込み市倉は日曜大工の父よろしく胡座を掻きながら組み立てを始めた。  器用なわけでもなければ、こういった作業が好きなわけでもない。ただ偏に悟志と共に過ごすために、悟志が過ごしやすい部屋にするため。  これまでは図書館で借りてばかりだった本も沢山買ってやりたい。暴力的な描写があるものは駄目だと言ってきたが、読みたいというならそれも。天井近くまでの高さの大きな本棚が埋まるまで、いったい何年かかるだろうか。  音楽だってもっと聞かせてやりたいし、ドラマやアニメだって見せてやりたい。だからテレビも買った。  勉強机だってもう16なのだから本当はなくてもいい。買ったのはあれを健全な子供の象徴のように思っているから。  もっと子供らしく。組長の目がない今のうちしかできないことを。  子供とすべきではないことまでしておいて、考えるのはそんなことばかりだ。  悟志が寝ている内に、今日使った分だけの金は全て自分の財布から悟志の金庫に戻しておこう。子供部屋の家具を自分で買わせるなんて、そんなの『親代わり』らしくない。

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