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第20話 -1

 大好きな人から、初めて連絡が来た。  友達からの連絡だと思い油断していた中で好きな人の声が聞けて、やはり好きなのをやめることはできないのだと思い知らされた矢先のことに心臓が跳ねた。  今まで自分だけが送り返答を返してくれていただけのメッセージ欄に新しく来た、彼からの言葉。  それに頬を緩ませながら返信を打ち込み、平静を装うために途中だった明日提出の課題に手をつける。  今まで長い間彼と顔を合わせることができなくなったのは自分の所為。その所為で友人との関係も悪化した。それなのに連絡ひとつでここまで嬉しくなってしまい、マイナス方向に考えていたのも嘘のように思えてしまう。  それでもやはり自分の所為であんな目に遭わせてしまった事実は変わらない。  お前の所為じゃない。そう言ってくれてもやはり、それを受け入れることは難しいわけで。  課題から目を逸らし、一つの書類に目を向ける。それは今日教師から勧められた転科について。  今までは小遣い稼ぎで行っていた芸能活動。活動とはいっても光達のようなきちんとしたものではなく、読者モデルだとかそういった誰でもできるようなものだ。  所属だけさせてもらっていた小さな事務所から、優も在籍する大手芸能事務所への移籍を提案されたのは悟志が学校に来なくなって割とすぐだった。光とも少し仲が悪化し、必然的に優や宵達と話すことも増えた矢先、優を校門まで迎えに来ていた彼の事務所の人間に誘われた。  爽やかでありながら、何処か影を落としているその表情がいい。優とも仲が良く芸能活動もしているのならばいっそ移籍をして俳優にでも、と。  その時には返事は濁したのだが、その話は何故かすぐに教師に伝わり、もしそうなるのであれば早めに入った方がいいと。勉強内容は変わらないのだし、教室が変わるだけだからと。  そういったこともできるのがこの高校の強みだからなんて笑顔で言っていたが、あれはただ金の生る木を増やしておきたいだけだろう。有名な芸能人を輩出すれば、学校としても名前がそれだけ売れる。だからだ。  俳優なんて興味ない。モデルだって金のため。使えるものはなんでも使おうと考えて、真っ先に気付いたのがこの顔だったからだ。  ……悟志は、どう言ってくれるだろう。  表情に影があったのは悟志のことを考えていたからだろう。自分の所為で悟志がレイプされて、自分の所為で追われる羽目になり、自分の所為で学校に来れなくなったから。そんな鬱屈とした考えを、優達と他愛無い会話をして誤魔化していたから。  誘われたのは悟志がいてこそ。そう言ったら、なんて答えてくれるんだろう。  書類を置き、もう一度メッセージを見る。 『来週からまた学校行ける』  それを、修学旅行のグループではなくわざわざ個人の方で送ってきてくれた事実が嬉しい。  彼にとって自分は路傍の石と変わらないと思っていたから。他のクラスメイトと大して変わらない、ただ抱かれたい時に利用しているだけの男。  少しは、自分のことを見てくれているのかもしれない。  好きな気持ちが、どんどんと溢れ出してしまう。

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