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第20話 -5
――まあ、翌日彼は自分のことを覚えていなかったのだけれど。
誰にお礼を言えばいいのか迷った末、何も言わずに着席していたのを思い出す。あの頃は他の皆と同じくモブ扱いだったのだろう。顔もわかってもらえなかった。
それが、今は少し離れた場所からでも認識してくれるようになった。大分いい変化だ。
このまま好きになってほしかった。けれど、無理かもしれない。
汚れもそのままに、いつの間にか眠ってしまっていた。驚き飛び起きると、空は既に白み始めている。
まだ母が帰ってくる前でよかった。時雨は服を全て脱いでから着替えを持ち風呂に入る。
冷たい冷水から温かい湯に変わっていくシャワーを浴びながら、光にも連絡したのだろうかと思い返した。
……もし、自分だけだったら。
それは嬉しくて死んでしまうかもしれない。
***
気まずさに、声が出せない。
原因は間違いなく目の前の小さい友人。
「さとがさぁ、若い男といちゃついててさぁ」
「ビッチじゃん」
「さとはそういうのじゃないから。もー、電話したタイミングほんと間違えた……」
優の家で集まろうという話になり、久々に悟志抜きの5人で集まった。外ではちゃんと話すことのできない悟志の愚痴を集まるなり話し出すそれに対して、時雨はただ聞いているだけ。
この様子では、悟志はいつまた学校に行けるのかを光に教えていないのかもしれない。でなければこうやってただ落ち込んでいるだけじゃないはず。
優越感が生まれる。自分は悟志の幼馴染で初恋の相手の光よりも優先されている。
ただ、それを口には出せず、寧ろ自分にしか教えてくれていないという事実に少し気まずさを覚えた。いつ帰って来るのかと心配している4人とは違い、自分だけが知っている。それは優越感に浸らせるものではあるが、それと同時に4人に隠し事をしているという事実もまた突きつける。
隠し事のひとつやふたつ、人間なんだからあって当然。それはそうなのだが、あまりしておきたい類のものではない。
「さとに早く会いたいなぁ……」
「でももう知らないって怒ったんだろ?」
「……でも、好きな人だから会いたいし」
こんな相手に、自分には連絡してきたなんて言えるはずがない。
冬馬に慰められるその姿を少し離れたところで眺めながら、時雨は優に出されたお茶を一口呷った。
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