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第20話 -12
九条として生まれたのはどうしようもないが、その後の身の振り方は自分自身に責任があると悟志は考えすらしない。
生まれてこの方、ずっとヤクザの子供、組長の子として敬われ嘲笑われ恐れられてきた。自分の無愛想な態度や高圧的な物言いが影響しているなんて露程も思っていない。
せめて光や時雨達のように人当たりの良い態度をとれたならまだ変わっていただろうに、そんなことさえ気付かないまま生きてきた。
教室に戻るにも階段を上がらなければならず、車椅子でしか長距離の移動ができない悟志は誰かが迎えに来るのを待っていた。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、ざわつき始める校内。同じクラスで自分と親しい人間は時雨しかいない。なんだかんだで来てくれるだろうと思っていたが、何分経ってもまるでやってくる様子がない。
スマホは鞄に入れたまま教室に置いてきてしまったため暇潰しもできない。同じ階に図書室はあるが、今の時間帯は開いていない。
暇だ。これなら登校しないで家にいた方がよかったかもしれない。
下手をしたら誰も迎えに来ないまま昼休みになり、午後が過ぎ、放課後になってしまうのでは。保健医に話をするという発想がない悟志は、そんなことを考えついてしまった。
「失礼します、九条いますか?」
聞いたことのあるような声がしたのは午前の授業が全て終わり、昼休みのチャイムが鳴って少しした頃だった。
時雨でも光でも、ましてや優でもない。あまりの暇さに眠りかけていたが起き上がり誰だと思い様子を窺っていると、カーテンを勢いよく開き宵が入ってきた。
「お前車椅子なんだって? 光じゃ力ないし時雨は喧嘩したとか言ってるからさぁ」
「……村木」
「そう。覚えてくれたんだ」
流石に二度も自己紹介されれば覚える。悟志はこくりと頷き、何故お前がとじとりと見上げた。
宵は畳んであった車椅子を手際良く座れるように広げ、ベッドの横に押してきた。
「優もいないしお前連れてけんの俺しかいないだろ。昼飯は時雨が鞄ごと持って来てくれるってさ。お前あんないい奴相手に何言ったんだよ」
テキパキと布団を捲り背中と膝裏に腕を回すと、掛け声と共に車椅子にひょいと乗せてくれる。流石に自力で立って座れはするのだが悟志が何かを言う前に介助をしてくれたため、敢えて何も言わなかった。
「手伝いしてるから慣れてるとはいえ同じくらいの体格の男の介助きっつ。トイレとかは自分でどうにかしてくれ」
「そこまで世話になるつもりはない」
「ならよし」
病院で手伝っているのだろう。それはそういった職業の人間が別にいるはずだったはずだが、あの小さい町医者なら人手が足りていない可能性は十分にあるか。
車椅子を押され、行き先もわからないまま悟志は宵によって連行された。
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