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第20話 -13
連れてこられたのは中庭だった。外部から見えることはなく、安全が保障できる唯一の屋外。
光と時雨は悟志のことを見るなり複雑な表情を浮かべ顔を逸らした。いつもなら走ってくる光も近付いてこないことに車椅子を押していた宵は首を傾げる。
「お前、マジであの2人に何言ったんだよ」
「何も」
光は怒らせてしまったからで、時雨は先程拒絶されてしまったから。何かを言ったからというより、ただ距離を置かれたからの反応だ。
遠巻きに黄色い声を上げていた女子達が悟志の登場で静まり返る。自分達が熱を上げている芸能人に自分のようなものが近付くのを良しとしないのだろうと悟志は早々に合点した。
「伊野波、鞄」
「あ、あー、うん。どうぞ」
露骨なまでに顔を逸らしていた時雨は悟志に鞄を渡しまたすぐに弁当に視線を戻してしまった。車椅子のストッパーをかけ冬馬の隣に座った宵は変なのとだけ言葉を零す。
指摘したところで戻らないだろうし、時雨にばかり構っていたら光がまた拗ねてしまう。悟志は澤谷に作ってもらった弁当を取り出しながら光を呼んだ。
「光」
「……なに」
怒ってはいないがぶっきらぼうな言葉だ。悟志ははぁと息を吐き、拗ねているのだとわかるそれに続けて声をかけた。
「あれは護衛でしかないから。あまり何度も言わせないでくれ」
「俺それに怒ってるんじゃないんだけど。さともほんと鈍いよね」
なら何に怒ってるんだ。理解ができず眉間に皺が寄る。
光のあからさまな態度と悟志の表情で一触即発だと感じたのか、冬馬が態と会話を逸らした。
「九条、車椅子で登校したって聞いたから驚いたけど何があったの?」
「……事故のようなものだ」
あれは事故だ。抗うこともできず突然襲われた不幸な事故。そういうことにしてしまえば時雨もこれ以上自分を貶めるようなことは言うまい。
そう思っていたのだが、悟志のその言葉に時雨が小さく溜息を吐く。
「俺が加害者のな」
「……違うって何度も言わせるなよ」
「何も違わないだろ」
だんだん腹が立って来た。なんだこの男は。
今一緒にいると絶対に言い合いの喧嘩になる。苛立ちを抑えながら広げていた弁当をまとめ鞄に放り込み、悟志は自分で車椅子を動かした。
「そんなに悪者でいたいならいればいいだろ馬鹿」
「馬鹿だからそんな目に遭わせたんだよ」
「しつこい。お前なんて嫌いだ、もう知らないからな」
「く、九条待って、どこ行くんだよ」
「1人で食う。自分が悪くないってこいつが言うまでお前らとも話さない」
冬馬の制止を振り切り、悟志は中庭を出た。
光も時雨ももう知るか。自分の都合の良いように早合点して、本当に腹が立つ。
誰よりも自分勝手に考えて行動している自分のことは棚に上げ、悟志は静かに昼食を食べられる場所を探し車椅子を動かした。
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