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第20話 -14

 追おうとしたのに光に止められてしまった。  なんだったんだ。宵は冬馬と顔を見合わせ3人の間に何があったのか考えてしまう。  暫しの沈黙の後、光が突然両手で顔を覆った。 「本当に可愛くて無理」 「お前何言ってんの?」 「しぐは悪くないの!なんでわかってくれないんだよ馬鹿!ってことだよあれ。ほんと可愛い」 「何その謎変換。お前も怒ってたじゃん」  光が幼馴染の可愛さに身悶えているところ悪いが、自分は正直悟志に腹立たしさを感じていた。なんだあいつは、と思っていたのに光のご都合主義な脳内変換に困惑してしまう。  光はわかっていないと首を振った。 「さとの言ってることわかるのやっぱ俺しかいないんだね。仕方ないけど。俺は嫉妬してたの。俺は朝会っても無視するのにしぐには靴履き替えさせてもらって一緒に教室まで行ってるんだもん。妬かないわけないじゃん」 「俺は同じクラスなだけだよ」 「ほんとにそれだけだと思ってるならもう二度とさとと話さないでね。さとが悪くないよって言ってくれてるのに頑なに俺が悪いんですって言い続けて困らせんなよ」  確かに、時雨の頑なな態度は少し疑問に思った。何があって車椅子状態になったのかは知らないが、見る限り普通に事故に遭ったような怪我もなくベッドから車椅子に乗せる時も違和感は何もなかった。足だって動かなくなったというわけではなさそうだ。  身体には異常がなさそうなのに車椅子に。その原因が時雨は自分だと言い、悟志は違うと言い張って。  当事者が違うと言っているのだから素直に受け取れば良いのに。時雨を眺め思っていると、光があっと声を上げた。 「さと、何処で食べるつもりなんだろ。車椅子で2階まで上がれるかな」  いつも食べていたのは屋上で、今はそこまで行けないから中庭に連れて来た。  この学校の校舎は中庭で分断されて2棟あるのだが、渡り廊下は必ず段差がある。教室棟の昇降口には2階に上がるスロープがあるが悟志が向かったのは違う棟だ。そちらには2階に上がるスロープがない。時雨が悟志を保健室に連れて行くことができなかったのはそのせいだ。  一度降りて来てしまった場合、また昇降口から入って2階に向かわなければ教室で食べることもできない。厄介な作りの建物だが、悟志は何処で弁当を食べるつもりなのだろうか。  光は心配そうにしていたが追おうとはしない。先程の話をしないという言葉に従っているのだろうか。 「しぐがさっさと謝ってくれればさととお話できるんだけど」 「俺が悪いのは変わらないから無理」 「ほんとにお前が悪いの?どうせ考え過ぎなだけだよ、別の要因あるからあんなにさとも怒ってんだと思うけど」 「……でも、俺の兄貴がいたんだ」 「それも偶然だと思うけど。お前にGPSつけられてるわけでもないんだから違うだろ」  数日前は時雨が悪いと怒っていた光が、悪くないんだからやめろと諭しているのは少し妙な光景に見える。  悟志の言うことが全てのようなその変わり身に、面倒だから謝るか何とかしてくれと宵は内心思ってしまった。

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