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第20話 -15

 ――悟志は保健室で昼食をとっていた。  図書室は飲食禁止で、他に入れる空き教室もない。だからと苦肉の策で保健室に戻り、驚いている様子の保健医に事情を説明しテーブルを貸してもらうことに成功した。  事情とは言ってもただ喧嘩したということしか言えず、早く仲直りした方がいいなんてありきたりな答えが返って来たのだが。  キッチンに立つということができず、今日は自分では作れなかった。だからと澤谷にお願いしたのだが、個人的に好きなのであろう揚げ物ばかりの茶色い中身に少し箸が止まる。野菜がひとつもないし、卵焼きすら入っていない。やはり明日からは買ってくるか自分でなんとか作るしかないか。  冷凍食品を買ってきて詰めてくれただけでもありがたい。残していけばきっと落ち込むだろうからと無言で食べ進めた。 「九条、いるか」  先程自分を保健室に連れてきた古谷が入ってきた。なんだと視線だけで問えば、古谷は1枚のプリントを差し出してきた。 「保護者に渡しておいてくれ。提出は来週の金曜までならいつまででも構わない」 「なんの書類だ」 「お前の授業参加を免除するものだ。代わりに相談室か進路指導室で同じ範囲の自習を行ってもらう。体育はどうせいつもと同じように期末に補習を受けるんだろう、それ以外の科目全てで適用するよう会議で決定した」 「なんで担任じゃなくてお前が持ってくるんだ」 「後藤先生にも予定があるんだ。それと、目上の存在には敬語を使いなさい」  教師が目上の存在だと思ったことがない。古谷に注意され、頷きながらも直すつもりはなかった。  悟志の性格上直さないのはわかっているのだろう、古谷は呆れたような表情を浮かべながら何か話題がないかと悟志の手元を覗き込んだ。 「自分で作ったのか?」 「俺が作ったらもっとマシな色味になる」  文句は言いつつも箸は動かし食べる。唐揚げを頬張りながらプリントを眺めていると、古谷はそうだと声を上げた。 「自習時間中は他の先生も見に行くが基本的に俺がつくことになった。それもあるから放課後お前の保護者と挨拶をさせてくれ」 「……別に、1人でも勉強くらいする」 「授業中いつでも眠りこけているだろう、課題ができなければ進級も危うくなるんだぞ」  いつも眠ってしまっていたのは確かだから反論ができない。悟志はぐぬ、と言葉に詰まる。  古谷だって受け持ちのクラスは多かったはずだ。何故自分の監督をすることが決まったのだろう。今は姿が見えないが他にも保健室登校の生徒は何人かいるし、自分だけ特別扱いのようになる意味がわからない。  ……やはりまた、九条の家の子供だからということだろうか。そんな待遇いらないのに。

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