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第21話 -1

 久し振りの登校で浮き足立っていたのを送り届けた今朝。  たった数時間で、悟志の機嫌は地の底まで落ちていた。  同級生ではなく男の教師に車椅子を押されて出てきた様子のそれに、車の外で立ち待っていた市倉はすぐに駆け寄る。  何か話しているようだったが、市倉が近付いたのを見るとすぐに黙り込む。何かあったと言わんばかりの苛立ちを滲ませた表情に、市倉はすぐにその場に跪いた。 「坊ちゃん、どうされましたか」 「……別に」 「九条くんの保護者の方ですよね。少しお話があるのですが大丈夫でしょうか?」  悟志との会話を遮るように教師が声をかけてくる。何の用だと視線をぶつけながら立ち上がり、車に向かいながらならと了承した。  教師に言われたのは悟志の今後の授業に関してのことだ。少し危惧していたがやはり難しかったか。提出用の書類のことも聞き、すぐに持たせると返答した。  教師は最低限の応答だけ済ませるとすぐに校舎内へと帰っていった。市倉は悟志を一度見下ろし、何も言わずに車へと連れて行く。  他の生徒がいる場所では話したくないだろう。後部座席に座らせ車を走らせてから、それとなく聞いてみることにした。 「ご学友と何かありましたか」 「……悪くないって言ってるのに、聞いてくれなかった」 「……嗚呼、あいつですか」  あの図書館の。そう思いながら聞けばこくりと頷かれる。ミラー越しに確認できる悟志の機嫌の悪さから見るに何度も意固地に否定され続けたのだろう。  目の前に立っていれば今にも噛み付いてしまいそうなその態度に、赤信号で止まってから振り向き直接視線を合わせた。 「暫くは教室にも行かないんでしょう。なら放っとけばいいんですよ」 「なんであいつはあんなに頑固なんだ」 「いやぁ、坊ちゃんも中々ですよ。類は友を呼ぶってことじゃないですかね」 「……俺は悪くないって言われたらすぐ受け入れる」  市倉が指を詰めたのは自分の所為だと思い込んで、この車内で泣き倒しだったのはどこのどいつだったか。  進行方向に視線を戻せば丁度信号が青に変わった。マンションまで車を走らせながら、この機嫌をなんとか違うことで治さなければ面倒だなと市倉は思案した。  友人の話ができないのなら、適当に澤谷にでも話をさせよう。あれで遊んでいる時が最近は一番楽しそうだ。気に食わないが。

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