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第21話 -2
マンションへと帰り、車椅子に乗ったまま市倉に玄関の扉を開けてもらう。
澤谷は奥で仕事か何かをしていたようで、靴を脱がせてもらっている最中にひょこりと顔を出していた。
「悟志さんおかえりなさーい」
「ただいま。……市倉、自分で歩く」
「わかりました」
何も言わず抱き上げようとしたそれを止め、自分で鞄を持ったまま壁伝いに立ち上がりゆっくりと歩みを進める。早く歩けるようになりたいから危険のない家の中では極力自分で歩くようにしたかった。
キッチンまで移動し、鞄から弁当を取り出すと澤谷を呼んだ。
「多くて残した。悪い」
「気にしなくていいんすよ。食べただけえらいえらい」
「……明日からは野菜多めがいい」
「おっけーです、揚げ物多かったっすか?」
「……ん」
やっぱりかと笑うそれに、わかっていたなら何故茶色で統一したんだと言いたくなるのを堪える。折角作ってくれたのだ、我慢しなければ。
澤谷が小腹が空いたから食べると言っていたため弁当はそのまま手渡し、自室に戻るためまた歩く。市倉はその後ろをついて歩いてきた。
考えれば考えるほど腹が立って仕方ないが、怒るのもお門違いな気はしている。時雨は何も知らないからああ言っているのであって、知っていてなお自分が悪いのだと言っているわけじゃない。
でも、自分の話を聞いてくれないことは気に食わない。それ以上に、突き放されたことで心臓のあたりが苦しくなる。
「市倉」
「なんですか?」
「……人が、離れるのは」
どう言語化していいかわからず、また自分の心の内自体自分で理解ができていないまま、ぽつりと零す。
「他人だから、俺の考えてることが伝わらないのも仕方ないのはわかってる。
堅気相手に言えないことが多くて、言ったところで別の意味で傷つけるだけだから、言えなくて」
話しながら辿り着いた自室の椅子に座り、膝を抱えた。横に置かれた鞄に手を伸ばし、中から携帯を取り出し暗い画面をじっと見下ろす。
言葉で伝えるのは苦手だ。文章の方が、ゆっくり考えられるからそちらの方がいい。
でも、今のあの調子では既読をつけてくれるかどうかもわからない。
「……さびしい」
自分のためを思って離れたのも、十分わかっている。
でも、自分が気に入った人間が離れていくのは、どうしようもなく寂しい。
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