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第21話 -3
愛息子の初めてとも言える『友人』への感情の吐露に、市倉は何も言わなかった。
言えなかった、が正しいか。あの子供達が離れていく寂しさを自分が埋めてやることはできない。自分が与えてやれるのは家族愛と情欲の発散だけ。それに肌を重ねたところで、友人関係を修復なんてできるわけがないのだから。
感傷に浸っている間は1人にさせておく方がいいだろう。市倉は雑に悟志の頭を撫で、鞄の中から提出用の書類を取り出し部屋を出た。澤谷にも部屋には入らないよう告げ、リビングで文章を読みながら保護者としてサインを書いていく。
自分以外に対しても感情の起伏がわかりやすくなってきたのは喜ばしいことだとは思う。
ただ、マイナスの方向にばかり偏りがちで、それを見ていることしかできないのは辛い。
自分がどれだけ支えになろうと思っていても、悟志が学生である限り自分以外との接触の方が多いのは当然で、自分以外に振り回されて傷ついてしまう。
いっそ、閉じ込めていたら傷つかないのに。一瞬でもそんなことを考えてしまい首を振る。飼い殺しなんて絶対に駄目だ。親分と同じところまで落ちてしまう。考えることすら許してはいけないことなのに、なんてことを。
どうにも、悟志のことになると考え過ぎてしまう。それが親代わりの庇護欲からくるものではないとわかっているのがまた不快だ。
他者と関わるのはいいことだ。
でも、自分以外の男に感情を揺さぶられて、自分以外の誰かを思って涙を流すのは、許したくない。
許すも許さないも、悟志の感情を左右するのは自分じゃないのに。
「悟志さんはお昼寝すか?」
「嗚呼。起こすなよ」
「わかってます、覗かないんで睨まないで」
最近の悟志のお気に入りを眺め視線が鋭くなる。
これがいなければ、此処も2人だけの世界だったのに。
なんて、下らない考えにも程がある。市倉は深く溜息を吐き出すと頭を冷やすためベランダへと足を向けた。
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