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第21話 -5
あの寝子を手に入れるためには、邪魔な人間があまりにも多すぎる。
あの世話係とチンピラだけじゃない。執着している義父は勿論のこと、幼馴染だからと出張ってくる光も、惚れたからかわからないが一丁前に保護者面してくる時雨も。
自分に懐かないままの状態で手に入れるためには懐柔する手段は打てない。これまでの相手とはまるで違う状況に、優はどうしたものかとまた写真立てを見下ろす。
光や時雨とはいい友人としてやっていきたいから、裏切るなんてことはしたくないし。光はこれからも売れるだろうからコネクションは確保しておきたいし、時雨は自分の事務所が今自分を通してスカウトをしているから、断られてしまえば自分の立場が悪くなる。
組の関係者達は皆抗争にでも巻き込まれてしまえばいいのに。
「凶弾が運悪く、……とかね」
アルの長毛に指を突っ込み、撃つ真似事をしながらばーんと小さく呟く。3匹の猫達は優の思考なんて読み取れないから、健気に懐いてくれる。
まさか死んでほしいなんてこと、この猫達じゃなかったとしても誰も気付きやしない。自分が演じてきた好青年そのものの姿は、誰の目から見ても違和感はないはずだ。
誰にも縋れなくなって、信じられなくなって、その上で近くに自分しかいなくなれば悟志はどうなってしまうんだろう。誰でもいいからと縋ってくるだろうか。それとも絶望に心を閉し、敵意だけは抱いたまま自分のものにならざるを得ないことに泣いてしまうだろうか。
嗚呼、興奮してしまう。
自分が病んでいることなんて重々わかっている。
この性癖が如何におかしく、他人には教えられないようなものなのかも。
改めるつもりは毛頭ない。こればかりは、根底にある幼稚園時代の鬱屈した精神と小学校の頃まだ幼く精通もまだだった自分の上に跨ってきた女優に植え付けられたトラウマの所為だ。
時雨や宵辺りに知られてしまえば、きっとカウンセリングでも勧められるんだろうなんて想像も難くない。
これは、治すなんてものじゃないのに。
世話係に教えたのか、GPSアプリが探知しなくなってしまい動向を探りにくくなってしまった。想定の範囲内ではあるが、まだ自宅の位置を突き止められていないため少しばかり焦ってしまう。
早く修学旅行当日になればいいのに。
修学旅行は行き先が沖縄だというのに、台風の時期真っ只中の7月に行われる。この時期であれば観光客も敢えて沖縄は避けるだろうから芸能コースの生徒達も同行しやすいだろうなんて配慮。
そんな配慮をされても、どうせ現地民も同行する同級生達も騒ぎ立てるからあまり意味はないのだが。
ともかく、修学旅行当日になれば悟志の荷物の中に『何か』を紛れ込ませることだってできる。油断させて家の構造について喋らせることだって不可能ではないはず。
修学旅行まであと2週間。足は心因性のものだから治るまでそう時間はかからないと宵の親戚の病院に勤めている素行不良の事務職員から情報を得ている。キスしてやったくらいで自分に気があると思い込んだ馬鹿な女だ。自分がクビになるなんて思いもしないのか、簡単に漏洩してくれた。
これまでの悟志に関する情報も、全部そうやって手に入れた。
自分にぴったりの玩具をやっと見つけたんだ。取り上げられないように、しっかりと自分の名前を刻み込まないと。
玩具本人も忘れることのないように、心の深いところまで。
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