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第21話 -6

 仲違いとは違うが、2人の間に距離ができたことが女子達にバレてしまった。  時雨は昼休みになった途端女子達に呼び出されてしまい、言葉に詰まる。 「九条くん教室で授業受けなくなったのもあんたのせい?」 「いや、それは流石に違うから」 「あたしら紹介するって話だったじゃん」  そんな話一度だってしていないが、今頃になって悟志に興味を抱いて何としてでも近付こうと鼻息荒く詰め寄ってくる女子達にそれを言えば烈火の如く怒り出すに決まっている。  今まではヤクザの息子だから暴力を振るいそうだとか話しかけたら何処かに連れて行かれて臓器をなんてありもしない妄想で、席が近くなることですら嫌がっていたのにこの変わり身。  ……俺の、九条なのに。なんて思ってしまう。  ただ、時雨がその本心を口に出せるわけがなかった。自分がバイだと言い触らされるのはいいが、悟志がこれ以上奇異の目に曝されることは嫌だったから。 「だから、別に九条とは喧嘩してないし。初日は一応教室来てたけど移動がしんどいから上がって来れなくなったんだし、お前らが顔合わせらんないのはどうしようもないだろ?」 「連絡先でいいから教えてってば」 「何回も言うけど本人が許可出してないのに他人に教えるなんてできないから。勘弁してくれよ」  自分だってあの日奇跡的に連絡先を交換することができて漸く一歩進めたのだ。それさえできないのに連絡先だけ知って甘い蜜を吸いたいなんて、個人的な感情でも許せない。  ごねる女子達に詰め寄られている時雨を誰も助けてくれない。昼食を食べる場所を探している生徒達も、猪のような雰囲気を纏わせる女子達を見てすぐに逃げてしまう。  嗚呼、誰でもいいから早く……。 「あ、くじょーくんだぁ」  自分に向けていたのとは明らかに違う露骨に甘さを含ませた声色に、思わずその女子の視線の先を見てしまう。  鞄を膝の上に置き、遠くにあった保健室から出てくるところだったようで、声に気付いたのかこちらを見ている。  数日振りに見れた顔。女子達は時雨には用済みだとばかりに悟志の方へと向かって行った。 「くじょーくんこれからお昼?」 「……ん」 「もしよかったらあたしらと食べよー」 「いや……」 「あーし車椅子押してあげるね」  碌に話をしたこともない女子達に囲まれ困っているのがありありとわかる。  助け舟を出したいが、自分はもう悟志にはあまり近付かないと決めた。だが、この状況は……、いやでも……。  迷った末、時雨は車椅子を勝手に押そうとした女子に近付き腕を掴んで止めた。 「いや、九条困ってっから」 「はー?お前に関係なくね?」 「なに伊野波、あたしら取られて嫉妬してんのー?」 「くじょーくんあんたよりイケメンだもんねー?」  全くその気はないしまずタイプではない。そう言いそうになったが確実に殴られるなと思ったので言わずに留める。  頭が悪いことは元から知っていたが、それに加えて自分に自信があり過ぎるようだ。悟志が困っているからとごり押せば、車椅子に座っている悟志は女子の腕を掴んでいる手と時雨の顔を交互に何度か見比べる。 「……ひとりでいい」 「え、九条くん?」 「1人が、いい」  ふい、と顔を逸らし、悟志は自分で車椅子を動かし廊下を移動して行ってしまう。  もしかして、嫉妬? 察せないほど鈍感じゃない。自分達の誘いが断られたことがショックな様子の女子達は置いて、時雨はそのあとを追いかけてしまった。  自分で、もう諦めなければと思っていたことなんて忘れて。

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