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第21話 -8
じゃあ、自分が諦める必要もないんじゃないか。
悟志に近付かないようにする必要もないんじゃないか。
自分が、原因じゃないなら。
「また、一緒にいてもいいってこと?」
「……嫌ならいい。修学旅行中は我慢してくれ」
「嫌なわけないじゃん。俺の方こそ、意地張ってごめん。……まだ好きでいてもいい?」
「……前にも言ったろ、返せないって」
「だから、俺が好きでいるだけ」
悟志を見る視線に我ながら熱が籠るのを実感する。指で頬を撫で、顎を掬い上げ唇を親指でなぞった。
唇が触れ合うだけのキス。時雨は一度だけかさついた唇を触れ合わせると、すぐに悟志から距離をとった。
「していいか、聞くの忘れちゃってた」
ごめん、と笑い気恥ずかしさに顔を背ける。お互いに謝って、誤解も解けて、拒絶されていないと理解した途端にがっつきそうになってしまった。
情けない。悟志から何の許可も得ていないのにまた猿みたいに盛ってしまいそうになった。
今更沸き上がる羞恥心と自己嫌悪に隠すことなく頭を抱えていると、悟志がはぁとあからさまな溜息を吐いた。
「本当に面倒な男だな、お前」
「だってさぁ……」
「今更許可なんてとらなくてもいいだろ。何回もしてる癖に」
「でも、一応今まで喧嘩してたわけだし」
「お前が一方的に抱え込んで自爆しただけだろ」
「……はい」
悪くないからそのままでいればよかったのに、自分が悪いんだと頑なに悟志の言葉を否定し続けていた。だから、喧嘩というには少しズレている。
それでも悟志のことも怒らせたし光にも散々言われた。だから、もう許可なしに触れるなんて――。
不意に悟志の体がこちらへと倒れてくる。具合でも悪くなったのかと咄嗟に差し伸べた腕を掴まれ、また唇が触れ合った。
「もう怒ってない。これでわかったか」
「……もー、なんで付き合ってない相手にそこまでするの」
期待、してしまうではないか。
時雨はずっと触れたかった栗色の髪を指で梳き、今度は深くキスをした。
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