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第21話 -9

 誰か来るかもしれない。  普段は鍵がかかっている屋上と違って、此処は人通りだってある。昼休み中本を読みに来る生徒だっている。  それでも、止められない。  何度も唇を食み、吐息まで奪うように噛み付くようなキスを繰り返す。舌同士が擦れ合い、上顎を軽く舐めれば悟志は肩を震わせた。 「ん、ん……っ…」 「俺が九条のこと好きなの、知ってるよね? そんな俺にキスしたらどうなるかくらいわかるだろ?」 「し、るか、ばか……」 「じゃあ教えてあげるけど、俺これまで以上に九条のことしか見れなくなるよ。九条と一緒にいたいし、ずっとキスしてたいし、今すぐ抱きたい」  ボタンを留めているシャツの間から、指だけを素肌に這わせる。薄い腹がぴくりと反応を示すのを触れて確認し、また唇を啄んだ。 「しないよ。でも、お前のこともっと好きになっちゃうからお前からキスはしないで。それとも、俺にもっと好きになってほしい?」 「……馬鹿」 「馬鹿でいいから、もう一回」  下唇を指でなぞり、また零れる吐息ごと唇で塞ぐ。  何度キスをしたって拒絶してくることはない。前は、市倉の言うことを聞いてちゃんと拒絶していたのに。  でも敢えてそれは言わない。そもそも言う気はなかった。  1週間以上目すら合わない日々を過ごして、今年の春から始まった友情とも違う結びつきの関係性すら消えかかった。  それが、とても怖かった。そして実感した。利用されるだけでいいと思っていたのは過ちだと。自分は、悟志のことをどうしても手に入れたいのだと。  でも悟志は自分の告白には決して頷いたりはしない。それもわかっているからこそ、キスやそれ以上のことをし続けて自分に依存してもらおうと決めた。  悟志の中での比重が自分に傾くように、自分以外を見れなくなるように。  最終的に裏の世界に帰ってしまうなら、自分は表の世界に悟志を一部でも繋ぎ止めておける楔になりたい。 「ねえ、嘘でもいいから好きって言って」 「言うわけ、ないだろ。あほ」 「残念」  幼馴染や世話係になんて勝てるとは思っていない。  それでも、自分にも依存してくれるように。  時雨は人の気配が近付いてくるまで、悟志に甘い言葉を投げかけ続けた。

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