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第21話 -10
図書室にやって来る生徒達の気配が近付き、すぐにキスはやめる。
それでも隣に座り続ける時雨のことを追い払うようなこともせず、悟志はキスに熱中したことで膝の上から落としてしまっていた弁当を拾い上げ、その包みを広げた。
悟志の手料理だろうか。時雨は興味津々に弁当の蓋が開かれるのを眺める。だが中にあったのは、悟志が以前まで作っていた彩りのある野菜多めのものではなく、揚げ物ばかりの男飯だった。
「肉つけたい感じ?」
「いや。……護衛が、作ってくれるって言うから」
「市倉さんじゃない人?」
「若衆の奴。何回言っても野菜がレタスとトマトしか入ってないのはどうかと思う。卵焼きだってまだ焼けないし」
唐揚げを箸で摘み、口に含み喋らなくなる。ハムスターのような頰の膨らみ方にまたも堪らない気持ちになりながらそんな人いたかと思考を巡らせる。
そういえば、光が何か文句を垂れていた気がする。若い男といちゃついていただの何だの。
「その人と一緒にいる時光から連絡来たりしてなかった?」
「……、来たな。いきなり怒り出して、通話切られてからまともに話せてない」
口の中にものがなくなってから喋るその姿にいい子なんだよなぁ、と笑みが溢れてしまう。
それにしても、悟志はまた自分の周囲に置く男を増やしたのか。世の中そう同性も好きな人間が多いとは思っていないが、悟志の周りに集まるのは大抵そうだから油断はできない。
揚げ物を食べ眉間に皺を寄せている姿を眺めつつ、どうすれば自分に依存してくれるだろうか考えた。
「……光、どうすれば怒らなくなると思う」
「うーん、ちゃんとその人について説明するとか? 光は何で怒ってるとか言ってた?」
「自分じゃなくて、お前らみたいな男の方がいいんだろって言われた」
「うん?」
お前ら、というのは自分以外の誰のことだろう。
光との違いなんてものもよくわからない。
どういうことだろうと首を傾げ考えていると、悟志は弁当箱の上に箸を置いた。
「身長が高くて、筋肉があるような」
「……あー」
それは確かに違う。光は可愛い系に分類される外見をしていて、自分や優達とは違った顔立ちでもあった。
それが理由なら、多分それはただ拗ねているだけなのでは。自分が喧嘩をする前に話していた様子では簡単に絆されそうには見えたし悟志が一言何か話しかけるだけでもいい気もする。
「今日は仕事行ってるから、明日とか直接話してみたら?」
「……ついてきてくれないか」
「えー? 俺正直お前のことこのまま独り占めしたいんだけど?」
「馬鹿。もういい」
「嘘嘘、冗談。ちゃんとついてくよ。怒らないで」
怒ってしまった悟志のこめかみにキスをして宥めながら言えばふん、と鼻を鳴らされた。
好きな人が誰かと仲直りするためになんて手伝いたくはないが、光は友達だし何より悟志が望んでいるのなら。
何度もキスしながら、箸を置いてしまった手を掴み優しく撫でる。
早く、自分に恋してくれればいいのに。こんなに恋人同然のことをしてくれても、付き合ってくれない。とんだ生殺しだ。
「光と仲直りしたら、こんな感じでキスするの?」
「……わからない」
しないって、言ってほしいのに。
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