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第21話 -14

 サッカー部の部室は相変わらず汚かった。  掃除も何もしていない空間に車椅子の入るスペースはなく、時雨は適当に落ちているゴミを足で退けてから悟志を抱き上げ、椅子へと座らせた。  誰も入ってこれないよう、内鍵をしっかりと締める。光は机に座り、時雨も近くの椅子に腰掛けた。 「俺と光に抱かれないのにあの人に抱かれる理由って何?」 「……わからない。お前達が嫌いなわけでも、したくないわけでもなくて、……ただ、眠気を、どうにかしたくて」 「そもそも、さとが今歩けないのってお父さんにレイプされたからでしょ? なんでそれを知ってる市倉さんはさとのこと抱いてんの、酷い人じゃないの?」 「俺が、してほしいって言った」 「それは何でか言える?」  躊躇いながらも、小さく頷く。  自分が言葉を選んで説明しても、どうしてだろうか上手く伝わらない。だから、聞かれたことには全て答えた方がいいと気付いた。 「ホテルで逃亡生活をする中で、一度市倉と喧嘩をして。……それで、そのまま俺が一度突き放して距離をとってしまったから、市倉も、愛想が尽きてしまったかもしれないと思った。  我儘で困らせて、俺の本当の父親の話を聞いて詰って、もう知らない、なんて言って。  ……でも、本当に離れていってしまうって思ったら、どうしてもそれは許容できなかった。父は体を差し出せば俺を傷つけることはなかったし、お前らも俺のことを抱いたあとは優しくなったから、市倉も、そうなって、離れなくなれば良いと思って」  何故喧嘩したのか、自分が一方的に怒り拒絶したのかは伏せて、悟志はぽそぽそと呟くように2人に説明をする。  2人がそれに対して返答を考えているのか黙りこくっている間に、もうひとつ付け足した。 「あと、……触られて、口とか、中とか、気持ちよくしてもらったら足も少し動くようになって、だから俺はそういうことが好きなのかもしれない、から」 「……しぐ、午後の授業出られなくなったって伝えといて」 「いやぁお前は出といた方がいいんじゃね? 俺が代わりに一緒にいるから」 「いやいや、さとは今日俺と仲直りしにきたんだよ。お邪魔虫はすっこんでて」 「俺がいないと此処の鍵かけられないだろー? 九条、俺と2人でもう少しだけ話しよっか?」  2人の表情が変わった気がする。  いつも通りの自分に対する優しい笑みに、何処か熱を帯びた視線。  まあいいや、なんて言いながら光は背後から回り込み、悟志の喉を指で撫でた。 「さと、気持ちいいことしてあげる。市倉さんより多分ずぅっと時間かけてさとのこと愛してあげられると思うよ」  戸惑っていると、前方からは時雨が。悟志の手をとり、その掌にキスをして指を絡めてきた。 「九条、俺としてよ。トラウマなんて忘れてちゃんと歩けるようになるくらい、俺は九条のこと愛したいから」  時雨が言うや否や、光の手が顎を持ち上げさせてきた。唇が触れ、小さな舌はいとも簡単に口腔へと侵入し上顎を擦り歯列をなぞってくる。  ぴくん、と体が反応する。その体に、時雨が手を這わせてきた。 「俺と光、どっちとするか選んで。選ばないとこのまま3Pになっちゃうから」 「、ぅ、さん……?」 「俺としぐ2人に気持ちよくされるってこと。さとはそっちの方がいいの?」  わからない。そんなこと聞かれたって、わかるわけがない。抱かれないと自ら決めたし、それは揺らいではいけないこと。  ただ、2人に同時に愛される。そんな贅沢なこと、してもいいのだろうか。  ……して、くれるのだろうか。

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