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練習試合

 自警団の隊服にはフードがついており、俺深くそのフードを被って顔を隠す。  帽子が支給されているが何故だか皆任務の際はフードを被る。身バレ防止という理由が最もだとは思うが、フードの汎用性はやはり高いのだ。  シノに案内され講堂に入ると、そこにはざっと見千人弱の観客がいた。軍事学校が四年制の学園だと理事長が言っていた。シノに問うと四年生はほとんど自分の進路のために動いていて、学園内にいないことがほとんどなのだという。  講堂は真ん中にステージのようなリングのようなものがあり、360度客席に囲まれている。ステージのみが照明で照らされ、いかにもといった感じである。  周りの様子をよく見ていると、ステージに理事長が現れた。 『今日は第七師団三番隊隊長が我が学園にお見えになっている。 急だが、余興として学園代表と練習試合をしてくださるとのことだ。 さらに陛下もお見えになっている。あまり突飛した行動にでないように』  全校生徒の目の前であるからか理事長は先程の柔和で食えない印象のダンディーなおじさまはそこにいなかった。厳格な雰囲気の男がそこにはいた。  理事長が告げた内容にどよめきが起こる。胃痛で帰りたくなってきた。 『静かに。では、学園代表を今から決める。自薦他薦問わない。ーー誰かいるか。』 途端、あちこちから「生徒会長!」「生徒会長様!」と、声が上がる。  ここまで生徒に慕われる生徒会長。  俺、これ勝てんのかなあ。えー絶対無理だってー。あーやだやだやだやだ。帰りたい。お布団に。  内心、駄々をこねまくりである。脳内で飼っているセイウンが何度も「逃げるな」と言っている。 『では、学園代表は生徒会長、タイト・レクサ上がりなさい』 ステージ上の理事長と目が合った。「登壇しろ」ということだろうか。  フードを被り直し、ステージへとゆっくり歩く。刀に指をなぞり、周りを見渡した。ステージから客席を見渡すと、案外客席に座る人の顔ってのはよく見えるんだな、と見当違いな感想を抱いた。照明が眩しく、思わず目を細めると観客席のところに見つけたくなかった人物を見つけた。  国王の隣に座るトーカと目が合う。    トーカは小さく口角を上げると、言った。聞こえるはずはないが、俺の耳にははっきりと聞こえた。  「ばーか」と。 *  んだよ、ばーかって、暴言のボキャブラリーが小学生並みで、思わず口角を上げてしまった。肩に入っていた力がフッと抜ける。  俺は意識を外から目の前の相手へと切り替えた。  やはりこの国の人間は平均的な身長が馬鹿みたいに高い。相手は俺よりも頭一個分は確実に高い身長差がある。「なんだコイツ弱そうだな」と舐め腐った表情を見せる相手は、きっと俺の体格を見て同じようなことを考えるのだ。  俺より断然高い身長。なに?この国ってイケメンしかいないの?少しばかり悔しくなりながら、刀に手を掛け、撫でるように片手を鞘の方に持っていく。すると、会長さんが心の底から俺を馬鹿にしたように笑い、「ハッ、コイツがあの第七師団三番隊隊長?チビじゃねえか」そう言った。  静まり返った講堂の中、発言したのは正真正銘、目の前の俺の相手——生徒会長のタイト・レクサである。この発言が皮切りに、他生徒からも俺へと野次が飛ぶ。罵詈雑言。  決定。コイツ、タコ殴りの刑に処す。  あぁん??なーにが、生徒会長だ。奢りまくってるアホじゃねえか。そういうデカイ口ばっかり叩いてるとなあ、俺みたいな奴にいっぱい食わされるんだぜ?つうか、ブチのめす。そうじゃねえと気が済まねえ…!なんて、心の中で毒づく。  俺は不敵に笑ってやる。フードを被っていても、口元くらい見えてんだろ?  俺は会長サンの顔が歪んだのと同時に戦闘態勢に入り、 『試合開始』 合図とともに、真っ直ぐに突進。 理事長の声とともに、相手が銃を構える。どうやら相手は銃使いのようだ。自警団では剣使いが主流だし、そもそも自分が剣士であるため、明かに不利である。 「…ま、関係ないけど」  即座に発砲され、剣先で弾の軌道をずらす。  無駄な動きは嫌いだが、少しくらいコイツを派手にヤってもいいだろう。 「見せプってやつだな」 少し怯んだ相手を嘲笑うかのように俺は弾をしゃがんで避け、前進。 思い切り右足で床を蹴り、的に焦点を据える。  間0.3秒。  刀は抜かず鞘ごと相手の顎に振り上げ、相手が後ろに飛んだところにかかと落としをお見舞いする。  チッ、コイツ自ら後ろに飛ぶことで衝撃を逃がしやがった。これでは致命傷にはならない。  後ろに飛んだ体制のまま相手が発砲する。 「残念だったな!俺は接近戦が得意なんだよ!!」 吼える相手に俺は目を細めた。  そのまま相手と近距離になるまでギリギリまで接近して、弾をかわし相手の肩を上からグッと押し地面には叩きつけ、刀を相手の額に軽く当てる。  相手の顔に驚愕の表情が浮かぶ。  この距離まで近づいて相手の瞳が綺麗な薄紫だった事に気が付いた。明らかに目が合っている状況に自分の顔を見られたことにも気が付いた。 『やめ』  第三者から見れば、俺が相手の上に馬乗りになり膝で両手を押さえつけ、相手の額に鞘ごと刀を当てている状態だ。  勝ち負けは明らかだろう。  相手から退き、片手を差し出し立ち上がらせる。すると、差し出した手を思いっきり引かれる。油断していたため、思いっきり前につんのめる。  その瞬間相手に抱きとめられるとともに、唇に何か、触れた。 「…悪かった」  どよめきの中しっかりと聞こえた声を聞いた瞬間俺は思いっきり相手の急所である顎を殴っていた。

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