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誓い
講堂の扉を開け、出ていくと、急に横から殴りかかられた。咄嗟に避け、再び殴りかかってくる腕を掴み取る。
「アオ、急に殴りかかってくんなよ」
第七師団三番隊隊員のアオがかなり殺意を剥き出しにして、こちらを睨みつけている。その隣には保護者役だろうか、セイもいる。アオは俺と目を合わせると先程の殺意を引っ込めて、瞳を潤ませる。
「しーのばかあ!なんでなにもいわないででてちゃうのさあばかあああ!!」
と、俺の身長を遥かに上回る図体で俺にしがみつくアオ。
「シキ、仕事は"報・連・相"って言ったのは誰だよ、何も言わないでこっちまで来ちまってよ。
他の隊員もブーブー文句言ってたぜ?特に、このガキはお前がいなきゃ使い物になんねえんだからよ。」
と、アオの頭に手を置くセイ。その手をうっとおしそうに払いのけ、大きな身体をさらにこちらに預けてくる。
「…アオ、シキが死ぬぞ」
俺に涙やら鼻水やらをつけまくるアオは、一年前トーカに拾われ今まで俺が世話をしていた。正確に言えば世話を押し付けられた、だが。
異常なほど高い戦闘力で三番隊の中でも群を抜いているが、初めて俺と会った時は自分の名前も出身地さえも知らなかった。それを良い意味でも悪い意味でも他人に興味のない三番隊の連中は、放置するもんだからかなり異質な存在だった。
そんなアオを俺はデカイ弟だと思っている。俺が名付け親だし。俺を「しー、しー」と呼ぶアオはかわいくはないが、甘やかしたくなるのだ。
「オイコラ、アオ。鼻水つけんな。ちょっと離せ、話ができない」
「やだああ、しーがおれをおいてったからあああああ」
埒があかないため、俺は子泣き爺を抱えたままアオを放置しセイに話しかける。
「…セイ、まじごめん」
「あぁ、どうせ団長だろ?それはわかってるんだ。
俺が聞きたのは練習試合のことだ。今まで団長は、お前をはじめとした三番隊は一切公の舞台には出さなかった。それなのに今回は王族の前で生徒と練習試合?しかも、相手はこの学園の生徒会長だと?一体何を考えてるんだ、あの団長は」
「……なに、そんなにこの学校の生徒会長サマっつーのは、すごい訳?」
「ああ。俺達自警団の連中っていうのは、この学園を卒業している。お前やアオの様な奴は特例なんだ。そして、その学園の生徒会長っていうのは、いわばこの学園のトップだ。軍事学校のトップという意味がわかるか?」
「つまり、自警団の即戦力ってこと?」
「それもあながち間違いではないが、この学園を卒業したってだけでネームバリューになるのに、更にそこのトップ、生徒会長になるということは、かなり使えるヤツってことだ。詰まる所、王族から目ぇつけられてんだよ」
俺にわかりやすいように簡単な言葉で説明をしてくれるセイに感謝する。つまりは、得体のしれない三番隊を王族は試したかったということだ。
「要するに、今回俺とその生徒会長サマは王族に試されたってことか」
「実際のところはどうかわからないがな。俺達ダガーは王族にとっても把握されてない部分の方が多い。ヤツらも不安要素は取り除きたいからな」
この言い方だと、王族というのは、あの王様や第三師団団長のことを指しているのではなく、他のいけ好かないヤツらのことだろう。
トーカも早いところ王族にくらい、情報を公開してしまえばいいのに。そうすれば、うるさい上の連中も黙る。俺達第七師団は特に一番隊や二番隊とは役割は違えど、確執も差別も戦力差もあまりないのだ。何故三番隊のみ情報をシャットアウトするのか。俺も顔や名前を知られていない分、動きやすいとは思うけれど。
「…今回は陛下からの勅命だ。俺はこれから一年この学園で過ごす。だから、よろしく頼むよ」
「…ハァー。団長から話は聞いてたんだ。ちょっとお前に八つ当たりしたかっただけだよ。アオはお前が直接言わないと聞かないから連れてきただけだ」
「あ、なんだ、そうなの」
「言われなくとも、しっかりやらせていただきますよ、お任せください。隊長。」
半ば諦め気味に言うセイに、俺は苦笑いをした。セイが副隊長で、俺の相棒で良かった。
隊長になって二年、長いようで短いような時間だが、副隊長がセイ以外だったら、俺はここまでやってこれなかったと胸を張って言える。
「…頼もしいね、副隊長」
「当たり前だろ?なんてったって、副隊長だからな、まあ、なんだ。お前は本来なら学生やってるような年なんだから、思いっきり学生やってこい」
俺はなんだか照れ臭くなったが、セイから顔を逸らさず、笑った。
「うん。」
セイは俺の頭をガシガシと撫でまわす。…俺の頭ってそんなに撫でやすいのかな。ちょっと子供扱いされてるみたいで気恥ずかしい。
しばらく、セイは俺の頭を撫でた後、手を離し外に向かって歩き出した。この背中の子泣きジジイも連れ帰ってくれればいいのに、とその背中を見送る。
図体だけ大きくて、泣き虫で甘えん坊で変なところ頑固で、今もグスグスと泣いているコイツの説得を試みなければならない。
一年前は周りの人間という人間を敵と認識していて、感情というものが欠落していたように見えたアオがここまで人間に対して懐いているのは正直嬉しいと思う。
「アオ、ごめんなって。しょうがないだろ?これは現国王からのお願いなんだ。俺が断れるわけないだろ?」
そう告げるとアオはその態勢のまま顔を俺の後頭部にぐりぐりする。地味に痛い。
「……わかってるよぉ。わかってるけどぉぉ」
と、余計にグスグス言い始めた。
くそぉ、俺もなんだかんだ言ってコイツを甘やかしてしまうのが悪いのか。そうか、俺が悪いのか。
俺は体を無理矢理反転させ、アオの腕の中でアオと向き合う。
「アオ、俺は別にずっといなくなるわけじゃない。この一年の間だって任務があれば学園から抜けて隊に戻るし、学生には長期的な休みがあるから、よっぽどのことがなければ帰れると思う。だから、ちょっと我慢してくれないか?」
な?と、俯いているアオの顔を下から覗き込む。
アオは急に顔を上げ俺の額に唇を落とした。
「なっ、はっ、おま」
「さっきあの生徒会長ってヤツにキスされてたでしょ?もう、ああいうことされちゃダメだよ?」
……何故どいつもこいつも俺が忘れたいことを掘り返してくるんだ。
「あんなこと、二度も三度もあってたまるかっつうんだ。俺の唇はそんなに安かねえよ」
「うん、シキは俺の大切な宝物だから。…今回はこれで我慢してあげる。」
満面の笑みを向けられ、指で額をなぞられた。畜生。いつもは師である俺のことをしーなんて呼ぶくせに。
「テメェ、背が俺より高いからって調子乗んな!ばか!俺は物じゃねえ!」
アオのその仕草にカチンときたので近距離のところから思い切りアオの顎に向かって頭突きした。……すげえ、いい音したなあ。アオは自分の顎をさすっている。
「……ったいなあ。絶対しーだって痛かったでしょ?」
「生憎俺は石頭なんでね、痛くも痒くもない。」
アオが離してくれたので、アオに背を向け寮に戻ることにする。理事長からの指示もないし良いだろう。
「しー、俺、しーを守れるようになるからね。」
そんなアオの声に俺は振り返らずに歩き続ける。
「ばあか。一年で追いつかれたら、溜まったもんじゃねえっつーの。」
俺の口角はなかなか下がってくれなかった。
***
本当に俺の師匠はかわいいと、思う。今の台詞だって、照れ隠しだ。絶対。
俺がしーを守る、なんて簡単な話ではない。確かにしーはよく見た目だけで判断されて、相手になめられているし、自分のことを激弱とか言う。でも、しーの戦い方はまず初見では理解できないだろう。その時点で、しーは相手よりも有利に試合を運ぶことができる。それを抜きにしても、視認できないスピードに圧倒されるのだ。
しー曰く、他人の力の流れが見えるらしい。前に一度どうしたらスピード力をつけることができるのか聞いたことがある。なんでも、力の向く方向がわかるため、次の相手の所作が予測できるようだ。
そして、パワーや身体の大きさでカバーできない分、敵の力を利用して攻撃をするというのが、しーのスタイルのようだった。
しーの故郷の武器だと言う刀、と言う剣は俺達の使う剣とは違い、切れる面と切れない面があって、それも初見殺しの一因だろう。切れない方で殴られるのは、アレはかなり痛い。しーは、絶対に仲間には刃の方を向けたりしないけど、切らない方、つまり棟で殴られると痛い。泣く。俺は泣いた。
オーラを隠し、一対一で対面してるはずなのに、存在を感知させない。そんなこと、誰にだってできるわけじゃない。
その分、相手を一撃で仕留める時に、溢れんばかりのオーラを放出させる。まあ最後のは無自覚でやってるんだろうけど。
その、溢れるオーラに大体の人間はコロッといく。俺もその中の一人でもある。
俺には昔の記憶も俺自身のパーソナルデータもない。正直自分でもそんな奴怖いと思うし、よく俺を隊に置いてくれるな、とも思う。でも隊に置いてくれて弟のように育ててくれて変なところ抜けてる、そんなしーを俺は守りたいと思う。いつか、しーが全体重を俺にかけてくれるように、頼ってもらえるように。
***
部屋にカードキーを通し、部屋の扉を開けるといい匂いがする。部屋に入ると、シノが料理をしていた。
「シキおかえり。作ったけど食べる?」
シノが嫁に見えた。あれだ、「おかえりなさい、アナタ。ごはんにする?お風呂にする?それとも、ワ・タ・シ?」っていうやつ。…疲れすぎて頭が湧き始めた。
「あ、食べる」
俺は急いで自室に引っ込み、トレーナーに着替え自室を出るとシノは皿によそって、テーブルに置くところだった。
「ほら、座った座った。お腹減った?」
「めっちゃ減った。ありがとう」
床に座り、テーブルに置かれたご飯を前に目を輝かせる。胃の中身が、下にぐっと下がった気がする。回鍋肉に似た料理とジャガイモの味噌汁とホカホカの白米に心が躍る。シノが座ったところで、二人でいただきますをして、食べ始める。
「シノ、料理できるんだ?」
シノに聞きながら、頬に飯をいっぱい詰め込んだ。
「んー?人並みにね。寮生活だからさ、やっぱり節約しなきゃね。他の皆は大体お金持ってる人多いから食堂の人多いけど、俺は特待生だしね」
やはりこの学校はエリートが多いだけあって、金持ちが多いのかもしれない。毎日三食食堂で金を払っていたら安月給の俺にとってはかなり痛い。
「へぇ、そうなんだ。あー、美味いわあー」
こういう日本食に近いもんを食べられるのは、かなり嬉しいし胃が喜んでいる。こういう飯を毎日食えたなら、幸せだろう。
「シキ、俺、昼は食堂だけど、朝夜作ってるからこれから作ろうか?」
「えっ、それすっごい嬉しいわ」
シノのその言葉に、思わず素直に喜んでしまった。俺の反応に、少し笑ったシノは「じゃあそういうことで」なんて簡単に許可してくれる。
「食費出すから、言ってくれ」
やはり作ってもらうだけでは申し訳ない。せめて金は出させてほしい。
「りょーかい。あ、これ食べたら風呂入ってきなよ、お湯は張ってあるから」
俺のハートを鷲掴みなんですが、あなたは嫁かそれとも俺の母ちゃんですか?
シノの優しさに甘えすぎかもしれないが、俺にとって初めてできた学友だ。舞い上がっているのは自覚している。「ごちそうさまでした」と一言言うと「お粗末サマでした」と返事がくる。自分の分の食器を洗って、お言葉に甘えて一番風呂をもらう。
出だしは順調。湯気の中で、笑みを零した。
*
風呂から出て、ソファに座るシノの隣に俺も座る。しばらく沈黙が流れ、それに耐えかねたシノが口を開いた。
「今日の練習試合、本当凄かったわ。なんて言うか、体格からして皆油断してたけど、流石ダガーの隊長だなって思ったし」
すっかり練習試合のことを忘れていた俺は、「あぁ…ありがと…」なんてつい曖昧な反応をしてしまった。
「…シキは、俺達と同い年なのになんであんなに強いんだ?あの生徒会長をあんなに軽くいなすなんて、びっくりした」
その真剣な口調に、俺はシノの横顔を見る。シノは目の前にあるテーブルの上のコップを見つめその表情は良いものではなかった。勝手な推測だがその色は『焦り』の色に見える。
「…別に謙遜するつもりは微塵もないけど、俺は強くないよ。この学園にいる奴らの方がよっぽど強い」
俺は素直に思ったことを、言葉にする。きっとシノからしてみればいい気分ではないかもしれない。
「…それを、謙遜と言わないでなんて言うのかな」
棘のある言い方に、違和感を感じる。
憶測にすぎないが、きっとシノは優しく明晰で真面目な人間だ。そんな人間が出会って初日の人間に対して、ここまで自分の強い感情を見せている。それだけこの短時間で俺を信頼してくれたのか。いや、きっとこの手の人間は簡単には自分の手綱を相手に渡さない。
それだけ何かに焦っている…?
「シノは、俺に何て言って欲しいの?」
シノは一瞬表情を強張らせ、俯いた。
自分が発した言葉はきっとシノにとって一番困る言葉だろう。でも、ここで俺が「わかるよ、しんどいよな」なんて薄っぺらい言葉をシノに渡すのは、自分がされても嫌すぎる。
答えのない無言の沈殿は、先程よりは居心地の悪いものではなかった。
「…ごめん、シキ。練習試合を見てなんか焦っちゃっただけなんだ」
そう言ったシノをまっすぐと見つめる。
「俺達は今日会ったばっかりだし、お前が望む言葉なんてあげらんないけどさ、シノの強さを俺は知らないし、シノは俺の弱さを知らない。…もうちょいじっくり考えてから、俺を値踏みしてくんね?」
シノが笑った。
「ふっ…値踏みするつもりはないよ、友達だからね」
その笑顔からは先程までの焦りは感じないが、それでも何かを背負った人間の笑い方をしている。
俺はシノの前へと周り、両手の親指をシノの肩に置いて思い切り下に押した。
「痛い痛い痛いなになになに!!!」
「かっった!!!なんだ、お前の肩!硬すぎかよ!!!!!肩に力入りすぎなんだよ!!抜け!!力を!!」
「はっ、はあっ!?」
痛い痛いと叫ぶイケメンに、ざまあみろと内心言ってやる。その表情からはもう『焦り』も『責任』も感じなくなっていた。
シノの肩を揉むのをやめ、その柔らかそうな髪に触れた。
「お前さ、俺に勝手に期待して、勝手に失望した、みたいな顔すんじゃねえよ。俺は他人様の気持ちなんてわからない。ましてや、会ってそこいらの友人の気持ちなんかな。でも、お前とはこれから仲良くなりたいって思ってるんだよ。だから、焦んなよ。時間はあるんだから」
「……」
「お前が、何に焦ってんのか、何に諦めてんのか、知らねーけど、その肩に入ってる力、抜いてみろよ。わかるぞ、世界の広さが」
俺がずっと大切にしている言葉を、シノに渡していく。
「……世界の広さ?」
同じ言葉を繰り返したシノに、俺はしっかりと頷いた。
「そ。なあ、知ってるか、この世界って広いんだよ、俺達がどう足掻こうと、全てを知り尽くすなんて無理なんだ」
世界の広さに絶望する時も、可能性を感じる時もある。
「だから、さ。もう、ゆーーっくり、これから知っていけばいいんじゃねえ?勉強も、戦い方も、俺の事も、………お前の事も」
言葉を反芻しているのか、目を輝かせながらも机に置かれたマグカップを見つめ続けるシノに、俺は背を向けた。
「じゃ、俺寝るわ。明日から学校行くから、起こしてくんね?」
「あ、あぁ。わかった。」
シノからの強い視線を感じるが、振り返らずに寝室の扉を開けて中に入る。
ふと正気に戻って、罪悪感と恥ずかしさが波のように襲い掛かってくる。扉を静かに閉めて、ベッドに思い切りダイブした。わかってるよ…!説教じみた事言ってゴメンって………!!俺がシノの立場だったら絶対うぜえアイツって思うよ…もう…友達無くしたかも…
深夜の一人反省会が始まった。
「ありがとう」
その聞かせる気のない、小さな小さな声は俺の耳には届かず、その一人反省会は過去の黒歴史暴露大会へと移行される。
夜はまだ、長い。
***
朝から疲れた様子のシノに首を傾げる。
「…朝からこんなに疲れたの、なかなかないんだけど」
じとり、とこちらを睨むシノは、どうやらなかなか起きてこない俺を必死に起こしてくれていたらしい。
「貴重な経験できたじゃん、良かったね」
「よかねーよ!!!つーか、なんだその眼鏡!」
そう、俺は本日から眼鏡男子である。インテリ眼鏡である。おい、そこ、需要ない言うな。
「いやあ俺昨日生徒会長に顔見られてるんだよねえ、はは」
第三師団団長のこともよくわかんないしなあ。念には念をって奴だ。
「はっ!?お前そういうことは早く言えよ!」
なんで?という顔をすると、シノはひとつ溜息を吐いた。
「…お前がダガーの隊長だって知ってるのはこの学園内で俺だけだろ?」
「うん」
「じゃあ尚更協力するだろ」
「お、おう」
ちょっと照れた。
ここの制服はブレザーは黒、下はグレイでネクタイは臙脂色とシュッとした感じだ。眼鏡は細いフレームのもので髪も自分少し切り、もともと長かった前髪を前に垂らす。これで昨日より大分印象は違うだろう。
俺がなかなか起きれず、シノが朝食を作れなかったために食堂へと向かう。
聞いてるとうんざりしそうなシノの説教を右から左へ流していると食堂に着いた。中はカフェテラスのようになっており、発券式のようだ。なかなかメニューは豊富だが値段がリーズナブルな価格とは言えず、このエリート高校め…と内心毒づく。
料理を適当に選び、空いている席に座る。どうやら料理は持ってきてくれるようで、至れり尽せりの環境だ。自警団の食堂ではセルフなのに、と実質公務員の大人たちと学生の優遇の違いに思わず笑ってしまった。
「そういえば、昨日話途中だったんだけど」
シノが頼んだパスタが運ばれてきて、シノは軽く会釈をし料理を受け取った。
「話?」
「ウチはゲイが多いって話」
「あぁ、はいはい、それね」
あまり覚えていないが、適当に相槌を打つ。
「生徒会と風紀委員会があってそいつらには近づかない方が身の為だよ。」
「目ぇつけられるとやばいってこと?」
「そいつらがやばいわけでも…あるんだけど、それより、周りの方が面倒臭い。」
確かにあの生徒会長のことは俺も内心ではバ会長と呼んでいるし、他の連中もヤバいのかもしれない。
「…ほう」
「顔や成績、家柄の良い生徒には親衛隊がつくんだよ。わかりやすく言うと、ファンクラブなんだけど……
大体の親衛隊の目的は、親衛対象の身の安全と抜け駆けを無くす為、対象に近づく人間は制裁される。」
「つまり、イケメンに近づいたら最期。お仕置きされちゃうわけね。…それで俺はお前と居てもお仕置きされない訳?」
「俺の親衛隊は、ちゃんと統率がとれているから安心してね、俺の交友関係に口出ししないように言ってあるし、なによりそこまで周りが見えない連中じゃない。俺の所はね。」
あー、やっぱりコイツは使える。一つの組織をしっかり統率できるというのはなかなかできない。どこかに勧誘受ける前に副に言っておこう。
「そりゃ良かった。目立ちたくないしなあ」
すると突然、食堂が爆発した。いや、本当にしたのではなく比喩ね、比喩。だが、まさに爆発したかのような悲鳴達。どっからその声だしてんの…、てか、ここ男子校よね?って感じのほぼ悲鳴。
「きたぜ、シキ。生徒会のお出ましだ。」
シノは食堂の入り口の方に顔を向け、俺に言う。そこには、昨日の生徒会長と後ろにチラホラ何人か。そのまま、食堂の二階の方に上がっていく。二階の様子は一階から見えるように設計されているようだ。
生徒会を見ていると、生徒会長がこちらを見るーー俺は咄嗟に目線を逸らした。
目ぇバッチリあっちゃったわ。しかし、もう一度目線を上げると、生徒会長は気にすることなく生徒会の奴らと話していた。良かった。
「ま、とりあえず、接触することはほとんどないと思うし大丈夫だと思うけどね。顔だけでも覚えておけば?」
「そうする。」
俺はなんとなくこの学園の性質を理解こそはすれど、馴染めるかとてつもなく不安になった。
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