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節約って大事よね

食堂に入り、適当に席を探す。 「シノ、もうちょい端の方でも良い?」 「んあ?いいよ」 …念の為、である。これ以上の身バレはアホすぎて自己嫌悪に陥りそうだ。 「シキ何にすんの」 「んー、鯖味噌定食」 こうして、日本食を食べれるのも(実際にはそういう概念が無いのだけれど)奇跡に近い。 「本当に朝だけなんだな、がっつり食べるの。」 「朝は1日の源だからね。」 シノと話しつつ、発券し端の方の席を探し、座る。 「この学園にさ、セツカ・オウシュウっているよね?」 今更任務を思い出した、とは口が裂けても言えないがまずは情報収集からだろう。 「えっ、王族のでしょ?いるけど…」 「その人って何クラス?」 「Sだよ」 「ブッ!!ガハ!ゴホ!」 「大丈夫!?」 思わず飲んでいた水が気管に入ってしまった。同じクラスじゃん!は!?俺一回も教室でアイツ見たことないんだけど!!!サボリ魔かよ!! 「なに、同じクラスじゃん」 焦りの顔はなんとか引っ込めて取り繕う。口の周りは先程の咳で悲惨だが。 「そうだけど、なんかあった?」 「…いや、噂を聞いたから、気になった」 「確かに、三ヶ月前くらいまでそう言った噂とか凄かったし、強ち間違いでもなかったけど。 この学園に入学するちょっと前くらいからそういうのスパッと無くしたらしいよ。 なんでも本命が出来たとかなんとか。」 ……なんで、そんな情報コイツ知ってんだよ。 「あっ、別にハッキングはしてないよ!? 噂だよ、噂!」 ……顔に出ていたらしく、焦って言い訳をし始めるシノに呆れた目で返す。そんなに慌ててると逆に怪しいぞ。 「…まあこの学園じゃ、少なくとも女は無理だろう。」 「まあそうだね。 でも、ここじゃ男も女も関係ないから。」 ……確かになあ…………。 そこに、俺が頼んだ鯖味噌定食とシノが頼んだラザニアが運ばれてくる。 食堂の人に、ありがとうございまーすと言い、受け取る。お腹減ったわー。 二人でそれぞれいただきますを言って食べ始めた。 「そういえば、生徒会って今日は来ないんだ?」 「んー、今日はどうか知らないけど、あの人達は滅多に食堂には来ないよ。騒ぎになるからね。 昨日のは所謂サービスみたいなもんだよ。たまにはみんなに顔を見せてあげよう、みたいな感じなんじゃないかな?」 「…相当生徒会の人気ってのは凄いんだな、しかもそれを喜ぶ奴らが居るってことだろ…?」 「ま、そういうことだ。男の園の花もまた男ってね。」 何言ってんだコイツ、という顔をして言ってやる。 「いや、全然上手くねえから」 「え、まじ?結構上手いと思ったんだけど。」 「その自信はどこから来るんだ……」 本当にコイツの笑いのツボはよくわからん。 *** 俺はその日結局五限から七限まで授業に出て、シノの飯を食い風呂に入り自室で本を読んでいた。 すると、隊で使われる無線から連絡が入る。 ちなみに、俺達三番隊は青いカフス型の無線を付けて連絡を取る。 そのカフスは学園に来た今でも左耳に付けている。 「はい、こちらシキ。」 『やあ、シキ元気してる?』 「…ニイロさん、お久しぶりです。」 『君、何も言わないで出てっちゃってさ、寂しいじゃないか。』 「すみません、急ぎだったんです。」 この人はニイロさん。三番隊最年長。 セイと同じシステム管理をしている人で、任務時はニイロさんが本部から指示を送っている。運動はあまり好きじゃないと以前聞いた事がある。かなり自由奔放な人でシステム系統はほとんど任せてしまっている。 「色々大変なことになってるらしいじゃないか、いつ帰ってくるんだい?」 「任務が入れば、出戻る予定ですが、長期的な物は、夏休みだと思います。」 『そっかあ、ちょっと寂しいねえ。アオがそっちに行ったみたいだけど?』 「あ、そうです。少し駄々こねてましたけど。まあ説得したので」 『君が言うなら大丈夫なんだろうね』 その言葉に嬉しくなってしまう。ニイロさんはお兄ちゃんみたいな人で俺を甘やかしてくれるから好きだ。 「はは、ありがとうございます。それで、何か問題でもありましたか?」 『うん、実はねその学園にシキ君が行ったって聞いて、学校のセキュリティーを僕が動かせるようにしたんだけどね』 ……それを世間は乗っ取りと言うのではないでしょうか。 『何者かが、何回もサーバーにアクセスしてくるんだよねえ、侵入しようとしてきたものには逆に爆弾仕込んであっちのパソコン使えなくなるようにしてるから楽しいんだけど。セイウンと二人で犯人を絞り出そうとはしてるけど、時間がかかるね。』 「その侵入者の目的などはわかりますか?」 『奴らの侵入の仕方を見ると、どうも複数人の個人情報を狙っているようだね。生徒会の子達と風紀委員会の子達、あとは成績上位者の子達だね』 つまり、学園の主要人物達の情報、か。 「ウチは金持ちも多いですから、誘拐目的、という線はないでしょうか?」 『可能性のうちのひとつではあるね。』 「学園には王族もいます。第三師団団長だけではなく、分家の方も表立っては居ませんが、ちらほらと。」 『ああ、あそこの団長さんね。団長さんも護られるような人じゃないけど。』 「そうですが。警戒するに越したことはないでしょう。」 『あとね、そっちの防犯カメラに不審人物が何人か出入りしているみたいだよ。これは一ヶ月前からだね、警備員さんの報告し忘れみたいだ』 「…………それはまずいですね、早急に理事長に連絡を取っておきます。では、ニイロさんとセイは引き続き捜査し て下さい。俺もこっちで調べます。」 『うん、頼むよ。程々にね。』 「はい。おやすみなさい。」 『うん。じゃあ、おやすみ。シキ』 無線が切れたのを確認し、早速理事長に連絡を取ったが、繋がらなかったため、メールで連絡をしておく。 とにかく警備は強化してもらわなければならない。 犯人特定も大事だが、目的はなんだ。 ………何事もなければいいんだけど *** 「新入生歓迎会?」 朝のHRの後、シノから告げられたその行事。毎年5月の3週目にやる行事なのだと言う。 「そう。チームどうする?」 「チーム?」 「シキ、さっきのタクちゃんの話聞いてなかったん?」 「タクちゃん?ああ、ターク先生のことか。」 「今年の新歓は、鬼ごっこなんだって、チーム組んで一年は逃げるんだよ。」 「ぼーっとしてたわ。チームって何人のを作んの」 「4人」 「よんんん?シノは俺とでいいの?」 「お前以外誰がいるんだよ、ほらあと二人見つけなきゃ」 見つけなきゃってお前……俺ほとんどクラスメイトと喋ったことないのに……。そう思ってると俺と同じくらいの背丈の同級生が近づいてくる。 「………シノ君、まだチーム、二人だけ?」 話しかけてきたのは、クリーム色のふわふわの髪の毛の男子。 「僕達もまだ二人なんだ。一緒にチーム組まない?」 「俺は、良いけど。シキは?」 「あぁ。良いよ。」 「良かったー!僕、シキ君と話してみたかったんだよね!」 「えっ、俺?」 「クロエがね、君を見て反応したから、クロエが誰かに反応するなんて珍しい…って、ちょっとクロエ!こっち来てよ!」 ん?クロエ?聞いたことある名前だな。 すると、切れ長の目に黒髪で高身長の男が… …って、なんでいんだよ。 「………」 「……………」 ソイツと見つめ合い、俺から話し掛ける。 「クロエ君って言うの?よろしく。俺、シキ。シキって呼んで。」 「あ、あぁ。」 とにかく、コイツと二人にならなくてはならない。 「ちょっと、俺、トイレ行きたいわ。クロエも行きたいだろ?行きたいよな?」 行きたいって言えよ、オラ。行くよな?という顔をして顎をしゃくってやった。 「あ?おっ、おぉ。」 「ちょーっと俺ら仲良く連れションしてくるから、二人待っててなー。」 ぽかんとしている、シノとふわふわ系少年を残してクロエと教室から出て行く。 クロエは俺の二歩程後ろを歩いてついてきて、怒られるのがわかっているのにやらかした犬みたいだ。 なんでこいつちょっとビビってんの。うける。いや、うけない。 どうやら、コイツは俺が怒ってるとでも思っているらしい。 しばらく歩き、人目のつかない廊下までくる。立ち止まり、後ろを振り返ると、ビクッと肩が揺れた。 「…なんでビビってんの」 「………だっ…て、俺がここにいること、言わなかったから隊長怒ってると、思ったっス。」 そう、コイツは俺の昔の部下である。しばらく極秘任務に就くと、一年半くらい前から会ってなかったが。 「怒ってねえよ。むしろ、良かったよ。ちょっと今大変なことになってんだ。まあ、こき使うかもしれないけど、そこは勘弁しろよ?」 「あ、ハイ。それはいいっすけど…。」 「お前が極秘任務って言ってたの、って何?この学園で誰かの護衛とか?」 「っス。さっき一緒に居た、ノアがそうっス。王族の分家なんすけど、少し前から脅迫文とかが家に送られてきてるらしいっす。」 …………今まさに危ない状態だっつう話がでてんのに…。 「ノアってさっきのふわふわ系少年か。」 「た、ぶんそうっス。」 「ノア君が分家ってけっこー有名なの?」 「いや、知ってるのは俺と本人だけっす。本人が王族として見られるのが嫌らしいんで。」 「ふうん。わかった。じゃあこれからノア君の身の回りで何かあったら必ず報告しろ。いいな?」 昨晩ニイロさんが言っていた件ともしかしたら絡んでいるかもな。念を押してクロエにそう言った。 「了解ッス」 「あ、あとお前その俺に対する似非敬語やめろよ~?俺はただの転入生なんだからな」 「………他が居る時だけ」 「まあいいか、それで。」 「っす!」 ……なんでちょっと嬉しそうなんだよ。同い年に敬語って普通嫌だろ。昔からコイツそうなんだよなあ。懐いてもらえる分には嬉しいんだけどな。 あまり放置してきた二人に怪しまれるのは面倒くさいのでさっさと教室に戻ることにする。 「あ、戻ってきた~」 「ただいま。」 教室に戻ると、シキとノア君が二人で話していた。 「シキ君!僕はノアね!よろしく!」 と、握手を求められたので手を差し出す。と、ぶんぶんと手を振るノア君。結構力強いな。 「ノア君、よろしく。」 「もー!君付けなんてやめてよ!ノアって呼んで!」 ちょっとかわいいな、コイツ。 「じゃあ、ノア。俺もシキって呼んでよ。」 と、言うとぱあぁぁぁっと顔が明るくなるノア。かわいいなあ。 「うん!あ、そうだ!さっきね、シノと鬼ごっこの話してたんだ!」 「鬼ごっこ?あ、新歓か。」 「僕、新歓楽しみなんだよねえ」 「…一般的な鬼ごっこだと思っていいの?」 「シキ、ルール知らないだろ」 「知らない。」 俺が即答すると、少し呆れたような顔をしたシノが説明してくれた。 鬼ごっこのルールはこうだ。 まず二、三年が鬼、一年が逃走者と分けられ、一年は四人一組になって一般棟二つとグランドで逃げ回る。 鬼ごっこ終了時チームの誰かしらが生き残っていれば、逃走側の勝ちというものである。 また、逃走側の救済措置として、捕まった者がいるグランドにブザーがあり、それを鳴らすと捕まった者は一斉解放という捕まえた側からすれば苦労が水の泡…といったものである。 生き残った側の特典として、食丼一年無料券が授与される。 これは鬼ごっこガチ勢を目指さなければならない。 「一応、注意書きに携帯電話の持ち込み禁止ってなってるけど、俺小型インカム作ったからこれなら鬼ごっこ中使えるよ」 「シノ、すげえな、お前。でも使っていいの?インカム。」 「この学園を生き抜くためには、ルールの穴を突くことだよ、シキ。」 まあインカムがあるとないとじゃ大違いだからな。なんか、こうなってくると、本気でやりたいな。 「じゃあシノ、頼むよ。」 「あーい」 「じゃあみんな、聞くけど、足の速さに自信はあるかな?」 「僕はない。期待しないでね」 と、ノア。 「俺はまあまあかな、普通だよ。」 「………俺も」 おい、クロエちょっとちっちゃく「っす」って聞こえたぞ。やめれ。 「体力はどうかな?」 「体力は任せて!マラソンは得意なんだ。」 ノアはマラソンが得意、と脳内メモに書き込む。正直意外だ。 「俺は自信ないかも、ずっとは走ってられないかな」 「………普通」 クロエの身体能力は把握しているから、いいとしてどうするかな。 「俺は、足の速さと体力は普通だよ。」 と、言うとクロエが凝視してきた。 やめろ。見るな、そんなウソつきを見るような目で見るなバカ。 「ただ俺はこの新歓、食堂無料券を賭けて、本気で挑みたいと思う。この鬼ごっこ、俺の作戦に任せてもらえないだろうか」 少し畏まったように言ってやるとシノがそれに便乗する。 「よし、いいだろう。」 「なんか燃えてきた!」 「……」 この即席メンバーでどこまでやれるかはわからないが、これはやらねばならない。 この食堂無料券、俺が貰った!!

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