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新入生歓迎会事変
追いかけてきた二年と思わしき鬼を撒き、周りを確認しながら、進む。
「シノ、今どこ?」
そう、今は新入生歓迎会の真っ最中だ。
『一般棟Iの二階』
直ぐに返事が返ってくるのは非常に有難い。良い機械だ。
「じゃあそのままそこ居て、鬼が来たら上に北の階段に向かって」
『了解』
鬼ごっこ終了まで、残り10分を切っていた。ウチのチームは前半はなんとか全員生き残っていたが、先程鬼の大量奇襲により、クロエとノアが捕まった。
これで俺達のチームは残り俺とシノのみ。
ーーーだが、まだ策はある。
***
「タクト、どうかした?」
ふっ、と視線を上げると同級生でもある副会長のエイノが心配そうにこちらを見ていた。
「……なにが?」
「なにが?ってねぇ、お前が行事中にぼーっとしてるなんて珍しいから、心配してあげたんでしょうが」
「別に、ぼーっとしてねえし」
「まあいいけどね、もう粗方一年は捕まえたし、一応救済措置としてブザーを設置したはいいけど、俺達生徒会がここを張ってたら皆来れないよねえ。」
「あと五分でこれも終わる。終わったら、生徒会室に行くが、お前も来るか?」
「最近ずーっとパソコンの前から離れないから心配してたのに、また生徒会室に閉じこもる気?まだ、あの隊長さんのこと探してるの?」
「……あれからずっと調べているが、上の連中は何も知らないみたいだった。自警団の隊員名簿には三番隊自体の記載がないんだ。」
「師団長が、トーカさんだからね。怪しくはないと思うけど。まあ、タクトもあんな負け方しちゃったら、ねえ?」
「うるさい。俺が唯一、アイツの顔を知ってるんだ、俺ならアイツがわかる。」
余裕をかましていた。その自覚はある。
一体どういうことだ。一般棟から四十人は軽く超えるだろうか、逃走者が一斉にこちらに向かってくる。一体どこからこの人数を集めてきたのだろうか。
「あちゃあ、一年はこれを狙ってた訳か、これは一本取られたねえ。」
隣の奴は呑気なもんだ。
「つべこべ言わずに捕まえんぞ。」
「タクト」
後ろからエイノの声がして、振り返ると視界にブザーが目に入る。
は、
「いつのまに、」
ブザーの近くには、黒髪の一年。俺達は今までブザーの近くに居たのに、気づかないくらい気配がなかった。
ブザーが爆音で鳴り、一斉に捕まっていた奴らが一般棟に向かう。これでは、もう捕まえきれないだろう。
くそ。なんで、こうもうまくいかない。
それもこれもアイツのせいだ。…アイツの、
「!エイノ!追うぞ!」
一斉に散らばる一年生を追いかける為、俺は後ろを振り返らずに、一般棟に向かった。
***
俺はブザーを鳴らし、役割を終える。残り三分。さすがにこの割合じゃチームメイトの奴らは残るだろう。……さっきのバ会長の顔は傑作だったな。
先程、一斉にグラウンドに逃走者が集まったのは、俺や、他の三人がSクラスの連中に呼び掛けていたからである。
予想外に人が集まったのはびっくりしたが、あの人数と生徒会の数人では確実にブザーは押せる。後は俺が気配を消して押すだけ。
案の定、例の生徒会長ともう一人ブザーの近くに居たのでビビったが、問題なく一年全員解放だ。
「つーかまーえた」
と、俺の腕を掴んだのは王子様のような容姿の男だった。
ブザーを押したら、捕まることは予想できていたが、なんだこの人。すごいキラキラしてるわ、初期のシノよりキラキラしてるわ。
「……つかまっちゃった」
「びっくりしたなあ、俺、気配とか結構察知できると思ってたんだけど。」
「影薄いんで」
「へえ、今回のこと画策したのは君でしょう?随分、性格悪いことしてくれるじゃない。これじゃあ、生徒会の面子は丸潰れだよ。」
画策って。まあ違わないけど。
「君転校生だよねえ?いやあ、面白い子が入ってきてくれて嬉しいよ」
「そうですか、」
「クラスと名前聞いてもいい?」
この人、見た目と違って、グイグイくるな。無茶振りを笑顔でごり押しするタイプの人だ。
「Sクラスの、シキです、」
「シキ君ね、俺は生徒会副会長のエイノ。よろしく」
「…よろしくお願いします」
げ、コイツ生徒会かよ。生徒会と聞くとあのムカつく顔の男が思い浮かぶ。
「あ、今回の救済措置でブザー押した人に、景品で生徒会にひとつお願いができるから、週末までに考えといてね!」
「えっ!?そんな景品告知されてませんよね!?」
と、普段出ないような大声を出す。
「うん、だって告知したら、ブザー押すのに二、三年まで押しにきちゃうもん。」
なにそれ、そんな景品俺はいらないです!!俺が欲しいのは食堂無料券だ…!!
「じゃあ、俺行くから、週末生徒会室までにお願いしに来ること!じゃあねえ」
は、はぁぁ!?そんなことしたら、確実にあの生徒会長サマとご対面じゃねえか…!
最悪だ………
***
最悪だ、何が最悪って、俺が意図せず獲得してしまった景品である。
…心底いらん。
鬼ごっこは、生徒会の采配で二、三年がラスト一年をまさに鬼のように追いかけ回し、残ったチームは僅かだったようだ。勿論うちのチームは生き残ったようだが。
「シキ、おつかれ」
「…シノ、お疲れ様。生き残って良かったな」
「何言ってんだ、お前の作戦勝ちだろう。」
「買い被りすぎだよ」
「どうして、そんなにシキは自己評価が低いかなあ…それで、さっきはどうして溜息なんかついてたの?」
「…見てたのか。」
「あんな廊下の真ん中で明らかに肩落として歩いていたらね。折角鬼ごっこも景品ゲットしたわけなのに」
そう言われて自分が影を背負ってトボトボと歩く姿を見られていたのを想像し、少し恥ずかしくなった。
「…副会長から言われたんだけど、ブザーを押した奴にはもうひとつ景品があるみたいなんだ。」
「へえ、良かったじゃん」
「よかねえんだよ…」
「まさか、」
「生徒会にお願い券なんだと、」
二人の間に、重たい沈黙が流れる。
「それは、つまり……?」
「放課後、生徒会室に行く訳だが、俺は生徒会長に顔を見られている。…不幸中の幸いと言っていいのか、まだ俺がこの学園にいる事はまだどこにも漏れていない。」
「でも、あんまりリスクがある事はしたくないよね…」
「それもそうだけど、お願いって、何お願いすればいいんだよ…」
「他の親衛隊の子とかは、1日デートとか」
「いらん」
「ランチを一緒に、とか」
「いらん」
「一晩を共に、とか」
「いらん!!」
「あとはー…」
「これ、バックレるわ…」
「…行かなかったら、もしかしたら親衛隊の制裁とか、あの副会長のことだから何してくるかわかんないよ…?話を聞いてると強制らしいし…」
「…………知らん…」
「おいおい…考えるの、放棄すんなよ…」
「やだやだやだ俺はもう疲れた、帰る、寝る」
シキは吐き捨てるように言い、足早に廊下を歩く。
「……どうなってもしらねーぞ…?」
***
「…アイツたまにイヤイヤスイッチ入るな」
イヤイヤスイッチ?ヤダヤダスイッチ?いや、それはそこはかとなくどうでもいいが、シキは心底めんどくさかったのだろう。考えることを放棄しさっさと寮の方に向かってしまった。
シノは先程シキがついていたため息よりさらに深いため息を吐き出し、教室の方向に足を向けた。
教室に戻ると、ノアが俺に飛びついてくる。
「てめえ!!どこ行ってたんだよ!シキは!!!」
ノアはすっかり素のまま慌ててシノに飛びつく。
「…ノア、キャラ変?」
「あぁん!?今はそんなことどうでもいいんだよ!!」
「シノ、気にしたら負けだ」
クロエが俺の隣に来て、ボソっとつぶやく。
………そんなもんなの???ここは、ツッコミ待ちとかそういうオチではないのか??いや、俺が落ち着け。
「…ノア、落ち着け。シキは今寮で寝てる。」
「寝てる!?寝てんの!?!?どうすんだよ、クロエ!!」
「…起こしに行くしかないだろう。」
「そ、だな、そうするか…」
「…………どうしたの?なんかあった?」
「あ、あぁ、さっき生徒会アナウンスがあって…」
「は!?いつ!?」
「鬼ごっこ終わった直後とか…」
「一時間前じゃねえか…」
特別棟ににいたため、一般棟の放送を聞けなかったのか、とシノは一人ごちる。何故そんな一般人に波風立てる様な事をする、生徒会……。
「で?生徒会はなんて?」
「いや、シキに生徒会室までっていう…問題はそのあとなんだけど、
あの副会長がわざわざこの教室に来て、シキいないかって探しに来たんだ」
「えっ、わざわざ!?」
「副会長は、あまり自分で動かないみたいだし、わざわざ来たことが親衛隊に知られたら大変だよ。あそこは過激派で有名だ。」
ノアは話して、少し落ち着きを取り戻したようだった。
「しかも、あッんの副会長、俺にシキ連れて来いとかぬかしやっがて…
俺をパシリにつかうなんざ一億年早えんだよ!!!!!!こんの、似非王子!!!!」
全然取り戻していなかった。どうどう。
「とにかく、これ以上生徒会に動かれたら、親衛隊が動く!
ンの前に、シキ起こして生徒会室連れていくしかないだろ!」
それはさながら、般若の様に怒りを露わに、というか最早ぷんぷんと怒っているノアに続いて俺達は寮に向かった。
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