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親衛隊とは

沈んでいた意識が浮上していくのを感じる。瞼をゆっくりと持ち上げると、機能していなかった聴力が冴えていくのがわかる。外で誰かが騒いでいる気がして、のっそりと起き上がる。 誰だ、俺の部屋の前で騒いでる奴…。 自室を開けると、 「……お前らなにやってんの…?」 シノ、ノア、クロエの三人がぎゃいぎゃい言い争っている。…クロエは巻き込まれてるだけの様だが。 「あっ!シキ!」 ノアが俺に気づいて、声を上げる。ノア…そんなに元気っ子だったか?……まあ可愛いけど。 「……どったの、三人揃って」 「あー、なんでも」 「ふーん?俺に、なんか用?」 「…!そうなの!もう!シノの所為で、忘れるところだったよ!」 「俺のせいかよ…」 「うるさいなあ!あのね、シキ!生徒会の人が放送でシキの事呼んでたんだよ!」 「……は?」 「副会長が、なかなかシキが来ないからって、教室まで来ちゃって、このまま放置していたら、大変かも…」 「だーから、言ったろ?生徒会室大人しく行っとけって」 「…まじか、えー、………まじか」 俺の語彙力何処ぞ、と思う程の思考低下に、現実逃避を早速始める自分の脳を無理矢理稼働する。 「あー…、とりあえず、今から生徒会室行った方がいい感じか?」 「…そうかも、僕もついていこうか?」 「えっ、それってアリなの?」 「うーん、僕、実は生徒会副会長の親衛隊隊長だし、理由にはなると思うけど」 「は!?え!?そうなの!?」 「えっ!?あ、別に副会長の事をお慕いしてる訳じゃなくて、普通に憧れっていうか、能力的にすごいな、っていうか、権力が欲しかったっていうか………」 最後はやけに萎んでいく声に、一同苦笑いする。かなり、赤裸々な内容がしっかり聞こえてしまっていたため、なんとも言えないがノアが自分から事情とかそこら辺の事を説明してくれるまで、俺は何も言わない方が得策だろう。理由はどうであれ、ノアに付いてきてもらえる、というのは心強い。 「……じゃあ、お願いしてもいいかな?」 「じゃあ、俺も!」 「いや、シノは部屋で待っててよ。シノまで生徒会室に行ったら目ェつけられちゃうよ。」 「生徒会室は、本来一般生徒は入っちゃいけないしね」 ノアが最後に行った台詞に、生徒会ってどれだけ凄いんだ…と改めて実感させられる。 「じゃあ、クロエとシノはここで待っててね!」 足取り重く、ノアと向かったのは件の生徒会室である。 「お願い、ホントなんも考えてなかった…」 「んー、なんか欲しいモノとかないの?」 「それは散々考えたけど、物欲が…」 「…欲がないのね、逆に心配だよ……」 ほぼ現実逃避に近い会話を交わすと、目の前の扉が勝手に開いた。 「部屋の前で、話してないで早く入ってきてよ」 生徒会室の扉を開けたのは、例の、副会長サマ。 「……スミマセン。緊張しちゃって」 「そんな~、何もしないのに。さぁ入った入った」 何もしない人は、そんな胡散臭く笑わないと思います。 「……あれぇ、君はお呼びでないけど。」 少し、目を光らせて副会長はノアに言い放つ。 「呼び出されたのが、友人でしたので、付き添いで参りました。」 「ふうん?生徒会室に入りたかっただけじゃないの?転校生をダシにして、親衛隊って本当に意地が汚いね。」 「………お言葉ですが、先輩。ノアに付いてきてもらったのは、僕からお願いしました。」 あまりの副会長の物言いに、堪らず口を挟むと副会長は俺を一瞥しまたノアに視線を向ける。 「…どうだか、今日はそれでいいよ。まあ入って、君も。」 そう促され、二人で生徒会室に入りソファに座る。 「エイノ様、失礼を承知で言わせていただきますが、この度のシキに対する放送や教室まで迎えに来るといった行動は、どういった意図がおありなのでしゃうか?一歩間違えれば、僕の友人が制裁され兼ねません。」 「面白い、俺が気に入った子だから迎えに行った。それだけだよ。自分のことを棚に上げているようだけど、そもそも制裁するのは君達親衛隊でしょう?俺からして欲しいだなんて、頼んだ覚えはないけど。」 「僕が親衛隊隊長になってから、一度も制裁を行なったことはございません。それは、エイノ様にとって良くない結果となってしまうからです。しかし、下の者は今の状況では暴走しかねません。ですから、エイノ様にもご協力頂きたいと、お願いしているのです。」 こうして、隊長として副会長に向かう姿は、普段のノアとは違い凛々しく、ただのお姫様ではない。 やはり、こちらの方が素に近いのか。元々物怖じするようなタイプではないのだろうか。 「俺は親衛隊は、はっきり言って要らない、と思っている。だから無くす分には構わないんだよ」 「横から出しゃばって、すみません。」 急に横入りしたシキに、二つの視線が刺さる。 「副会長、俺はここに来て浅いので、あまりこの学園についてあまり語る身にないとはわかっていますが、親衛隊はそもそも対象を守る為にあるんですよね?」 ノアに視線を向けると、ノアはうなづいて返す。 「だから、こうして真摯に向き合ってくれる隊長さんがいるんだから、一回話し合ってみればいいじゃないですか。確かに、制裁とかイジメとか良くないと思いますし、親衛隊が副会長のプライベートと侵害してはいけないと思います。」 「でも、少なくともこの隊長さんは、副会長が穏やかに日々を過ごす為のお手伝いがしたいだけじゃないんですか」 だから、お願いだからそこでバチバチせんでくれ!!!!頼むから!!俺が居辛い!!!怖い! 「……………ふふ、本当に君は面白いなあ」 はい? 「俺に説教なんでする奴、この学園にいるんだねえ。」 「……すみません。……」 説教!?説教に入るの!?!?これ!? 「まあ、今日はシキくんの言うことを聞いてあげる。一理あるからね。」 「………ありがとうございます。」 その時、生徒会室の扉が開いた。 「あ、きたきた。遅いよ、タクト。」 俺はその言葉を聞いて、心臓が縮むかと思った。 *** 生徒会室の扉を開けて入ってきたのは、予想通りあの、いけ好かない生徒会長。その後ろには二人、生徒会長の後ろから顔を出す。 「あれ~?お客さん?」 「ミナミ、俺の放送聞いてなかったの?この子が、今回の救済措置のブザー鳴らしたの子だよ。」 「あー、おれねてたかもー」 チャラい会計と副会長の会話に耳を傾ける。この、チャラい奴が会計ならもう一人のめちゃくちゃ身長が高い奴は書記か庶務か? 向かいのソファに生徒会長が偉そうに腰をかける。 「それで?今回あの包囲網突破した奴が、この一年?」 「そうだよ、シキ君。一年Sクラス。今月初めに転校してきた子。」 「…あぁ、そういえばそんなのいたな。」 生徒会長が、そんなんでいいのか。 「ちょっとかいちょ~、一年生にはもっと優しくしてあげなきゃ~、シキくん、おれはねー、生徒会会計のミナミってのー。よろしくねぇ?」 「…どうも、よろしくお願いします」 なんだコイツ『~』がデフォルトなのか!?腹立つからやめてほしいな… 「そういえば、俺も自己紹介がまだだったね。僕は生徒会副会長のエイノ。そこの机に居るのが書記のミケ、この隣で踏ん反り返ってるのが、会長のタクト。」 「踏ん反り返ってるは、余計だ。」 「まあその高すぎる鼻も先日ポッキーンって折られちゃったけどね」 …………それは、あれか。 アレのことなのか。 目の前の会長サマは、顔を伏せプルプルしてる。プルプル。 「銃じゃ右に出る者が居ない学園史上最強の生徒会長様とまで言われたタクトがまさか、負けるとはね。しかも相手は第七師団三番対隊長でどんな巨漢が出てくるかと思えば、細身のチビ。あれ程愉快だったものはないよ~」 副会長の言い草に生徒会長が吠えた。 「うるっっせえ!!!!俺の前でその話すんなって何回言えばッ!!!」 「えー?だぁーってタクト、あの隊長に恋しちゃったかのように探し回ってるしぃー?なぁーんか怪しいよねえ」 俺も吠えたい。だーれが細身のチビだ。巨漢じゃなくて悪かったな。 胸ぐらをつかまれながら、ニヤニヤとし続ける副会長に俺も殴りかかりたくなるが、ここは我慢である。 「あの、ご用件は何ですか。」 このままこんな所で時間を食うなんて冗談じゃないので、話に割り込む。 「あぁ、そうだったね。救済措置として設けたブザーを君が鳴らしたから、その特典をあげようと思って。特典は、生徒会になんでもお願いできる権利だよ。さあ、なんでも、どうぞ?」 「……それって本当になんでもいいんですか」 「もちろん?生徒会の誰かにハグしてもらいたいだとか、1日デートしてほしいだとかなんでもござれ」 「…えー、じゃあこの学校って出入り自由にできましたっけ?」 「いや、外出許可が必要だね、理由がいるけど。例えば、祖母が亡くなりました。とか、結構厳しいんだよね。この学校。」 「あー、じゃあ外出許可ください。」 「え?そんなのでいいの?いいの?俺とチューしなくて」 「いらないです。全然、いらないです。」 「えー、みんなはほしがるのにー。」 「エイノ、そいつに構ってないで早く仕事をしろ。」 「チッ、うるさいなあ。いつもタクトの方が仕事サボるくせに」 「あぁ?俺は今やってんだろ」 「ハイハイ、じゃあミナミにやらせてればいいじゃない」 「なんで俺!?」 とりあえず、俺がここにいる必要はないので、さっさと失礼することにする。 「じゃあ、帰ります。」 「えー、シキくんもう帰っちゃうの?」 「はい。じゃあ、ノア帰ろう。」 そう言ってノアの手を引いて、ソファから立ち上がる。 「うん」 「では、失礼します」 そうして、俺はやっとこの地獄の時間から抜け出せたのである。 *** 「……ノア、悪かったな」 「…………ん?なにが?」 寮への道のりで、俺がそう言い出すとノアは小首を傾げて聞き返す。 「いや、ほら。親衛隊があそこまで疎まれてるなんて思わなくて、安易に連れてっちゃったし、横から口出ししちゃったし」 「ううん、あそこまで顕著に嫌ってるのは副会長様くらいだし、僕も分かっていてついていたったんだよ? それに、シキは庇ってくれたんでしょう?」 「いや、色々この学園について知らないんだな、って実感したっつーか、知らないのに口出しちゃって、もう…本当、俺バカ……」 「ふふ、そんなこと考えてたの?僕は気にしてないし、ここに来てからあんまり時間経っていないのに、あそこまで親衛隊について理解してるなら充分だよ。」 「……うん、ありがとう…」 「どういたしまして。とりあえず今回のことで制裁なんてさせないから安心してね。」 「はは、ノアは頼もしいな」 「あったりまえでしょー?」 シキはノアの髪の毛をくしゃくしゃと撫でる。 「絶対、させないんだから」 「?…なんか言ったか?」 「んー?シキは僕が守る!って言ったの!」 「それは、嬉しいな」 自室にノアと共に戻ると、やはりシノとクロエが待っていた。この二人が何を話すのか至極気になるが、相手はどうやらそんな空気ではないようだ。 「シキ!!大丈夫だった!?」 「ん?大丈夫だったよ。」 クロエも目で心配だったことを伝えてくる。 「…………ふふっ」 「な、何笑ってるんだよ」 「いやあ?べつに?」 なんだか、いつのまにかこんな風に思ってくれる奴が増えてることに、つい、笑ってしまったのだ。 晩飯は食堂で食べると言うので、ノアとクロエが帰り、しばらくしてシノが晩飯を作り始める。なんともなしに台所までついていき、シノが料理しているところを眺める。 「シキ、生徒会に何をお願いしたの?」 「あー、外出許可」 「?外出許可?なんで?」 「あー、もしかしたら任務とかで、外に出なきゃいけないかもしれないからな。」 「ふーん?」 「あー、いや、外出許可なんて理事長に頼めば一発だろうけど、毎回理事長のところなんか行ってられないからな」 「なるほどね、なんか言われたりしなかった?大丈夫だったの?」 「だーから、おれは大丈夫だったってばさ。 ……俺よか、ノアが」 「あー、ノア何か言われてた?」 「…あぁ、アイツは多分、普段のあの周りからお姫様って呼ばれるような質じゃない。きっと、おれが心配するようなヤワな奴じゃないだろう。だけど、俺の目の前で、友達を傷つけられる、つーのは、どうにも……」 シノはきつく握りシキの手を見遣り、ノアの本来の質について知っていたのか、と思う。 「アイツのあれは、大して気にしてねえし、いいんだ。猫被ってたって。俺も言ってないことあるしな。」 そう言われ、自分は同室で本当に良かった、とひとりで安心する。だって、シキの秘密を俺は知ってるんだから。 「親衛隊っていうのは、ああいうものなのか?蔑ろにされるものなのか。」 「隊によると思う。副会長のところは、前の隊長が、ほとんど私物化していたし、制裁も凄かったから。」 シキは黙り込み、何か考え込み始める。 「……ほら、ご飯できたよ。考えるのは後にしよう。」 「……うん」 この学園に俺が入学した本当の意味があるんじゃないか?と、今回の事で思うのだ、 親衛隊について、とか。いや、自分の勝手な思い込みに過ぎないが。それでも、この学園は俺たち自警団の卵のようなものだ。折角ここにいるんだから、なにか学園の為に動いてもいいかもしれない。まあ、友達の為だ。 なにより、この前ニイロさんが言っていた事も、何も解決していない。今晩あたりニイロさんに連絡してみるか…。 自室に入り、カフスをいじる。 「ニイロさん、今、忙しいですか?」 『シキ?僕も丁度連絡しようと思っていたんだよ』 「じゃあ、何かわかりましたか?」 『うん。その学園の王族にしばらく脅迫している輩がいる。王族と言っても、分家だけどね。』 「そいつが、件のシステムに侵入してくるモノですか?」 『その可能性が高い、ね。』 「犯人はわかりますか?」 『犯人は、普段麻薬売ったりコソコソ稼いでる奴らだよ。組織の名前は、"鼠(ラット)"。だけど、おかしいんだよ。』 「なにがですか?」 『奴らは普段、脅迫したりそういった事はしない。コソコソ動くんだよ。もしかしたら、命令している奴がいるかもしれない。』 「……黒幕がいるって事ですか?ただ金が大量に必要になったとかではなく?」 『ごめんね、シキ。これに関しては僕もまだわからないから、断定ではないけど…」 「なんとなく匂うんですね。わかりました。」 彼が、断定的ではない事を言うのは、珍しい。 『ありがとう。それで、その脅迫されている王族の生徒なんだけど…』 「はい。」 『………一年Sクラス、ノアって子。彼、かなり危ないかもしれないね。』 ニイロさんの声が遠い気がする。耳鳴りが、する。

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