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その身に着けた象徴

…………やられた。普段の脅迫がもはや小学生レベルだったから、油断した。 昼休み、いつものように三人で一緒にご飯食べようと思ったら、シキがいなかった。 本当は四人で食べるつもりだったけど、仕方なくシノとクロエと食堂に向かい、その帰りにシノは用事があると言うからクロエとふたりで自分達の教室に一番近いトイレに入った。他のクラスから少し離れているトイレで普段はSクラスの俺たちくらいしか使わないトイレ。 入った瞬間、背後から押さえ込まれ、クロエが床に倒れる。犯人は複数か…?口元に何か布のようなものを被せられたと認識した瞬間、俺の意識は落ちた。 目を覚ますと、辺りは暗い。 手足も縛られているようだった。目隠しはされてなくて可動範囲を確認する。…何か大きめのバッグか布のようなものに包まれているのか? たまにくる振動と、音から馬車の中に居ることに気づく。 制服のズボンのポケットナイフを確認し、安堵する。まあ、外見だけで言えば可憐な美少年だから。こんな物騒なモン持ってるなんて思われなかったのかもしれない。そこは犯人の馬鹿さ加減に感謝だ。 だが、犯人の目的はなんだ…? 身代金か?脅迫内容はいつも「秘密をバラしてもいいのか」みたいな内容だった。 そんなこのレベル家に、バラされて困るような秘密はないが。あって両親のアホさとか? あのアホ共は、本当なーんも考えず息子の危険なんて考えず過ごしてたけど。 身代金要求されたら、俺殺されるだろうなあ…そう思うとなんだか、腹が立ってきたな。 振動が止まり、馬車の荷台の扉が開く気配がする。 しばらくすると、足音が複数近づいてくる。 掴まれ突然の浮遊感に驚きながら、息をひそめる。 くそッ、荷物みたいに持つんじゃねぇ… よ、酔う……… 暴れ出したい衝動を無理矢理抑え、平常心平常心……と心で唱える。 今ここで暴れたって、こちらにメリットはない。 痛めつけられて意識を飛ばされるか、睡眠薬をまた飲まされるか。そうとなってはこの限られた情報すら得られない。 しばらく、運ばれ急にドサッと下に落とされる。 っっいぃってぇ~~~……… この野郎………!!! すると、目の前がいきなり明るくなり目を閉じる。 「おい、いつまでおねんねしてんだ」 発せられたダミ声に、ゆっくりと瞼を開ける。 目の前には複数のガタイの良い男達。 ……456、6人ってところか。 「それで頭は、こんなガキ一匹連れてきてどうしようってんだ」 「知らねえ、兎野郎共の指示だろ。俺たちにゃアイツらの考えてることなんざわからんだろ」 「それもそうか」 「とりあえず、この坊ちゃんが目ぇ覚ましたら呼べっつー話だ。誰か報告してこイ"ッ!?ガ、ガハッ"」 突然、目の前の男の胸に腕が貫通していた。 「目ぇ覚ましたら、呼べって言わなかったっけぇ?」 その男は、胸に刺した腕をゆっくりと抜く。 刺された男は息絶え、床に身体が倒れた。 「マーニさん!?ど、どうして…!」 「どうしてもこうしてもないでしょう?」 男は、兎の仮面を被り腕を真っ赤に染めている。 見ると兎の男は周りの男どもより上の立場なのか? 「僕は、グズは嫌いなんだ」 「す、すいません…今、目を覚ましたところでして」 「鼠なんか、雇うんじゃなかったよ。僕等がやった方が早いのに。君達のせいで一匹迷い込んできちゃったみたいだよ?」 兎の男が、そう言うと何かをこちらに放り投げた。 「シキ!?」 「あー、この子のお友達なのかなあ?ダメだよお、いくらお友達が心配だからってついてきちゃ」 シキは、目立った外傷はないようでそのまま俺の隣に縛り付けられる。 酷く怯える様子を見せるシキを、男達は嘲笑った。 「じゃあ、ネズミさん達? ーーーここで、全員死んでね」 そう言うと、奥の扉から兎の仮面をした男達が一斉に入ってきて、男達を殺していく。 この男達は、兎の奴等と仲間ではないのか…? 響き渡る断末魔に、男は答える。 「お仲間が地獄で待ってるよ」 話の見えない展開に、混乱してしまう。 すると、隣で何か動く気配がすることに気づいた。 *** 6人程居た男達は、兎の仮面をした連中にやられてしまった。 この場には、先程マーニと呼ばれる兎の仮面の男、その部下と思われる10名程の連中。 そして俺と、シキ。 「さて、と。お掃除は終了だね。」 男はそう言い、こちらに顔を向ける。 「やあ、君はノア君だったね?君はなんで自分が連れ去られたのか、わかる?」 「……わかりません」 この男の異様な雰囲気に、口が渇く。 発した声は、乾いていた。 「うん、だよねえ。安心しなよ、別に身代金を要求するつもりもないし、君を今すぐに殺すつもりはないから。」 「………?」 「お友達もいることだし、王族が動くまで待とうか」 「……いや、俺の為に国が動くはずがないだろう」 俺の返答にマーニと呼ばれた男が糸で引っ張られたかのように口元を歪め、目を細めた。 「君のお家はねぇ、ある秘密があるんだよ」 「…秘密……?」 「そう。君の家はオールとシビュラの大事な大事なな宝物なんだよお?」 「俺の家が…?」 「君達や、オウシュウ一族がそれを知らないのは、この事実を隠したお馬鹿さんがいるからなんだ」 「……」 「お馬鹿さんはオウシュウ一族がこの国を統治する前にこの国を好き勝手していた奴等なんだけど、自分達がこの国を統治できないってわかった途端この情報を隠したんだ」 「…よく…分からない、なんのために?」 「君達レベル家に何かあったら、オールが怒っちゃうからさ!お馬鹿さんは、機会を伺ってオール国との戦争を引き起こし情勢が揺らいだ瞬間、王冠を奪還しようとしたんだよ。だから、その為に俺達みたいなテロリストにその大事な情報を渡して協力させようとした。」 オール国…何故隣国の名前があがる? 「だけど、それも失敗!何故なら、俺達兎は誰かの指示なんか従わない。今頃奴等焦って自ら自白しに行っているところだと思うよ」 「これで、オールがこの国を攻めてきたらどうなっちゃうかなあ…?」 楽しそうに話す兎の男に、俺はどうすれば良いのか考える。 つまり、その秘密が何か知らないが、このままだと大きな戦争が起きてしまう。このイカれたテロリスト共をどうにかしないとならない。 中途半端の情報開示で頭の中はぐちゃぐちゃだ。 しかし脳内の混乱も酷い爆発音により吹っ飛ばされる。 「!?」 「あれぇ、予定より早いなあ…?」 部屋の外で何かあったようだ。 本当に、王族が動いたのか…? 兎の男も、予期していなかった事のようで、少し驚いている。 「まあ、いいか。王族の奴等の前で君を殺してあげるよ」 「……!?」 「さっき、殺さないって言ったじゃないかって? ふふ、さっきはね、「今は」って言ったんだよ」 伸びてくる手に俺は咄嗟に顔を背けた。 …?いくら待っても掴まれる様子がない。 恐る恐る、顔を上げてみると……… 「シキ…!!」 シキが男の首に短刀を向けていた。 「その汚ねえ手で俺の友達に触んじゃねえ」 「………アレェ?アレアレェ??さっきまであんなに怯えていたのにナァ。折角、殺すのは後回しにしてあげようと思ったのに。目障りだなァ?目障りなモノは消さなきゃ」 突然男が、フラッと倒れたかと思えば物凄いスピードでシキに斬りかかる。 「シキ!!!!」 シキはその攻撃を避け、短刀で対抗する。 男はどこから出したのか、剣でシキに攻撃をしかける。 「結構やるじゃない?オトモダチ?僕の攻撃を避ける奴、初めて見たなあ」 「そりゃ、ドーモ」 「アレェ?ドライだなあ」 「獲物がこれじゃ、お前に膝つかせらんねえからな」 「そんな大口叩いてダイジョブ?」 その攻防は、目にも止まらぬ速さで行われた。 彼の動きは、しなやかで繊細でとても美しかった。 これ程までの男だったのか、と。 また、爆発音。 突然、奥の扉が吹っ飛び外から続々と人が入ってくる。黒い軍服、特徴的なパーカー。その格好は俺の知らない自警団の制服で、その黒に目を惹かれる。 「隊長!」 見知らぬその怒声とともに、投げられたのは二本の細身の剣。 その剣が収まったのは、彼の手の中。 「第七師団三番隊、これより兎討伐作戦を遂行する。」 *** 「第七師団三番隊、これより兎討伐作戦を遂行する」 彼の宣言で、一斉に自警団の人達が兎達を弾圧していく。 「……なーんだ、国もそこまで馬鹿じゃないってことね」マーニがそう呟く。 シキが鞘を抜かずに剣を奴の額にあてる。 「………お前が何をもってテロリストになったのか、俺は知らない。知る必要もない。それは被害者を裏切る可能性があるから。 ……だけど、一つだけ聞く。お前が望んだ未来は、なんだったの。」 するとマーニは自嘲気味に笑い、俯く 「……それを聞いてどうするの?」 「どうもしない。俺が知りたいだけ。」 「ふぅん、噂のダガーの隊長は風変わりだねぇ」 「噂なんてあてにならないだろ」 「まあ、そうだな。 ………いいよ、教えてあげる。 ……………先の戦争で、妹を亡くした。ただそれだけ。」 「………」 「国が憎かった。敵が憎かった。自分が、不甲斐なかった。だから壊そうとした。…思い描いた未来なんて無いよ、そんな大層なモンじゃないさ」 シキはマーニを真っ直ぐに見据えている。周りは怒声と銃声で騒がしいというのに彼の周りだけ透き通り冷え切っているようだった。 「僕の負け。君の勝ちだよ、こーさんします。 ……聞いてくれて、ありがとう」 *** そこからは早かった。 何が、ってもうテロリスト集団、兎は第七師団にボコボコにされ、そのまま連行されて行った。聞くと、マーニとやらが言っていたお馬鹿さんも捕まったそうだ。両親も無事だそうだ。まああの馬鹿共は刺されても生きてそうだが。 「ノア」 声を掛けられ、振り返るとそこに居たのは所々制服を血に染めたシキだった。 「…シキ」 「悪かったな」 「…え?」 「お前を守りきれなかった」 「何言ってんの?」 本当に、コイツは何を、言ってるんだ。 「守ってくれたじゃん。それに俺は、お姫様でもなんでもない。男だよ。」 「………ふっ、そうだったね」 「てか、どう言う事だよ?なに、隊長って!」 「それより、ノアのぶりっこはどこいったんだよ?」 「ぶりっこじゃねえよ!!!アレは設定だ!!」 「あー、ガバガバな設定ね」 「ガバガバは余計!!!」 やっぱり、俺の直感ってすげえよな。 この眼鏡は面白いって。 「じゃー、帰ってシノの飯食いながらでも話すとしますか」 「腹減ったなあ…」 帰ろう。 *** 兎は全員お縄につき、鼠は兎の手によって壊滅。今回黒幕だった本家の連中も自供し、お縄。兎は「今頃馬鹿共は、自白してる」だなんだの言っていたが、結局馬鹿は自白していなかった。まあ、自白せんでも俺達は情報を掴んでいたため第七師団はトーカの指示で動いていた。今回奴等が自供したのは俺のボイスレコーダーのおかげ。捕まっている間、ずっと録音しっぱなしだった。その動かぬ証拠で国を揺るがす元凶共は根こそぎ洗い落としたって訳だ。と言ってもテロリストは兎だけじゃないし、この馬鹿デカイ国に犯罪組織はまだまだ居るから、仕事が無くなる訳ではない。 ちなみにレベル家にはしっかりと説明をし、今後国の保護の元暮らせるようだ。 「シキ、早く食べないとご飯冷めちゃうよ?」 「あー、ごめんごめん」 俺はいつも通り寮部屋でシノの飯を食い、学校に向かう。 「そういえば、クロエ明日退院だって」 「マジか、退院っつっても4日で戻ってくんのか。すげえな」 「クロエ、丈夫そうだもんなあ」 「ボコボコにされてた筈だけど」 「ありゃ、相手が卑怯だったな。スタンガン一発と二人掛かりで押さえ込まれちゃ、厳しいだろう」 「ま、俺じゃ無理」 「そんな事言って、シキならいけんちゃう?」 「いけんわ、アホタレ」 軍事学校の制服に身を包み、談笑する姿は青春そのものだ。彼らは今ある幸せに緩む頬を抑えることもせず、友人を誘って入院している彼の元に会いに行こうと話した。 第一章・終

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