14 / 127

第二章・トュインクル×2

ふと気がつくと、俺は荒れ果てた地にいた。 「…ここは……?」 周りを見渡すが、誰もいない。 下を見ると、俺は学ランを着ていた。 「は…?学ラン……?なんで?」 いよいよおかしくなってきた。俺が今通っている軍事学校はブレザーだし、自警団には軍服がある。 学ランなんて三年ぶり…。 しょうがない…、しばらく探索してみるか。 とりあえず適当な方向に歩き出す。 すると、人影が見えてきた。 知らない人に話しかけるのは、気が乗らないが今はそんなこと言っている場合ではない。 「あ、あの、すみません」 しゃがみこむ人に話しかける。見ると、俺より小柄だ。小学生くらいかな。 顔を上げた、彼を見て俺は慄いた。 か、かおが……… 「お兄さんは、誰ですか?」 ……ない… ホラーが苦手なために、つい怯えてしまった。 ない、というか顔の輪郭がぼやけているというか、彼の顔にだけモザイクがかかっているような感じだ。 「っ、えっと、俺は、」 「僕は、○○。」 「……っえ?」 何故かその名前は聞き取れず、思わず聞き返してしまう。 「僕ね、待っているんだ」 「…待っている?誰を?」 「お家に帰るんだけど、お迎えが来ないの」 彼の喋り方に、俺は違和感を覚えた。 まるで、俺の声を無視しているような、俺の声が聞こえていないようだった。 「いつになったら、許してくれるのかなあ」 「……?」 「お兄さん、僕ね、神様を怒らせるようなことをしちゃったんだって」 「……」 「だから、神様の言うとおりにしなくちゃいけないんだけど、」 「…」 「いつになったら、許してくれるのかなあ」 彼が、悲しそうに下を向いた瞬間、辺りがなにもない荒地から白いなにかで積まれた山になる。 …これは………… ………骨? 「お兄さんも、神様に許してもらえるといいね」 「…………?」 「嘘、ついてること」 そう言った彼の顔は、 アオにそっくりだった。 *** 「おーい!シキ!起きろよ!遅刻すんぞ!」 その声で、俺は目蓋を開けた。 ……さっきのは、なんだ? やけにリアルな夢だったな…… 「今、起きたあーー」 シノに返事をし、ベッドからナメクジのように動き出す。 ネクタイは後回しにして、制服を着る。 鏡の前に立ち、適当に髪を整え眼鏡を掛ける。 自室からでると、朝ご飯のいい匂いがした。 「お、おはよう。シキ」 「んーおはよ」 夢の最後のシーン、あの子はアオによく似ていた… 思い返してみれば、髪色も青だった。年齢は今のままじゃないけど顔もよく似ていたような… 「おい、飯中に考え事すんな」 「……あ、ごめん」 シノに怒られ、ポトフによく似たスープに手を伸ばす。湯気が顔を包んで眼鏡が曇る。 「…どうした?今日はやけに上の空だな。寝れなかったの?」 「なんか、変な夢見てさ」 「変な夢?」 「あれは悪夢のうちに入るのかな…」 「いや知らんけど、不吉だな」 「うーん、そうだなあ」 あ、人参落ちた *** 教室に入り、窓際の後ろから二番目の自席を目指す。 「あ、シキおはよ〜」 いつも通り、皆からお姫様スマイルと言われる笑顔で挨拶してくるノアに苦笑しながらも返事を返す。 「おはよ」 「シキ、今日の放課後時間ある?」 「放課後?大丈夫だと思うけど…」 「ホントッ?じゃあ、4人で勉強会しようよ!」 「あー、テスト明日か…?」 と、話に入ってきたシノ。 …え?テスト? 「シノ、今思い出したみたいな言い方〜! 明日からテスト!!大事なテストだよ〜?」 「今思い出したわ」 「……俺、今知ったんだけど」 「この前、タクちゃんが朝のHRで言ってたのに!シキ教室に居ないこと多いからなあ…」 「朝起きれないんだよ」 「…起こしてるけどな」 「俺、じっくり熟睡派だから」 呆れた顔をしたシノにひとつウインクをすると、溜息をつかれた。解せぬ。 「俺やばいから、勉強会やろう」 「やったあ〜!決まり!じゃあ、シキ達の部屋でいい?」 特に、拒否する理由もない。まあ、移動しなくて済むかな。 「おー」 「ところで、シキって普段どこ行ってるの?」 「……んー、秘密」 *** 特に隠す理由もないのに、ノアに秘密と言ってしまった。校舎フラフラしたり、屋上で寝てたり、後はセツカの見張り?とか。あ、隠す理由、あったわ。 セツカと一緒とか変な噂がたちかねん。まあ、ノアなら良いけど、理由とかいうのめんどくさいな。 まあ、この前は任務で呼び出されたり忙しい時もあったし、夜中から朝方にかけて学園にいないっていうパターンもあったけど。 中庭への、道中1人でうんうんと考えながら歩く。 側から見たら変な人だな。 中庭に着き、真ん中に置かれているベンチを目指す。 「おい、セツカ」 声を掛けてみたが、反応がない。 「…?」 前から回り込んでみると、そこには誰もいない。 「…今日は、居ないのか」 暇になってしまい、ベンチに腰掛け空を眺める。曇が太陽にかかり、そこから薄くなった光が妖精の粉みたいだ。 「こんなところで、何してるの?」 ……びっくりした。その気配に気づけなかった。 突然声を掛けられ、後ろを振り返る。 「………副会長」 あのいけ好かない副会長が、近づいてくる。 「誰に会いにきたの?」 「……は、?」 「ほら、寂しそうな声で言ってたじゃない。 今日は、居ないのかって」 まさか、そこから聞かれていたのか。というか、寂しそうになんて言っていない。 俺の不服が伝わったのか、副会長は小さく笑い俺の隣に座ってくる。 「ここは、あの帝王様の住処だと思うけど?」 「………帝王様?」 「あれ、知らない?セツカ・オウシュウ」 「……知ってますけど」 「彼は、自分の住処に人を近づけないはずだけど」 それは、知らなかった。頭の中で縄張りを守る勝手に犬化したセツカが吠えている。 「そうなんですね」 「それで?ここに何しにきたの?」 「…副会長こそ、何しにいらっしゃったんですか」 「俺?俺は気分転換しようと思って」 「……そうなんですか、折角の気分転換にお邪魔しました。」 そう言って、サッと立ち上がる。今だ、逃げてしまえ。そもそも、ここが「帝王様の住処」って知っててわざわざ教えてきたくせになんでここにいるんだよ。 「…………離してください」 「なんで逃げちゃうのさ、折角捕まえたのに」 「…別に逃げてないです」 俺の右腕を掴み離さない副会長。なんで、止めるんだよ…!俺がいたら邪魔だろうが……!! 振りほどこうにも相手の力が強く、振りほどけない。 「離さないよ」 その、台詞と笑顔に背筋が凍る。 諦めて、自分が座っていたところに座り直す。 「副会長サマなのに、授業サボっていいんですか」 「俺はSクラスだからね」 「あぁ、ナルホド」 「生徒会室で気分転換すれば、いいじゃないですか」 「えー、生徒会室だとあいつらがうるさいんだよ」 本当に嫌だ。この人きらい。 「そんなに拒まれると傷つくなあ」 「……」 「みんなは嬉しがるのに」 「…じゃあ、そのみんなのところに行けばいいじゃないですか」 「そういうことじゃないんだよなあ」 「……あなたが」 「ん?」 「あなたが、その無駄なキラキラを無くしたらいいですよ」 そのキラキラが眩しいんだ。まるで、その粉を身体に振り掛けたら空を飛べるようで。 「……プッ、なにそのキラキラって」 「………………そのあなたが周囲に振り撒くオーラですよ」 「俺、キラキラしてる?」 「……はい」 「君には、俺がキラキラしてるように見える?」 「…………イルミネーションかってくらい」 「…ハハ、なにそれ。嬉しいなあ」 余計キラキラしたオーラを強くする副会長に思わず、「うわっ」と言ってしまう。嫌がらせか?コイツ。

ともだちにシェアしよう!